トヨタ自動車が、ここ数年のどん底から復活を果たした。今期の連結営業利益は、リーマン・ショック前の2008年3月期以来、5期ぶりに1兆円を超える見通しだ。12年の新車販売台数も約970万台を見込んでおり、5年ぶりに過去最高を更新し、世界トップに返り咲くのは確実だ。

 この復活の陣頭指揮を執ったのが、創業家から14年ぶりに就任した豊田幸男社長(56)。創業期以来の赤字に転落した危機の最中に就任し、その後も、リコール問題や東日本大震災、超円高などの試練と対峙した。その豊田社長が、険しかった道のりや今後のトヨタの姿について熱く語った。

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――リーマン・ショックやリコール問題、東日本大震災など厳しい時期が続きました。

 ちょっとおごりが出てきているときに、どーんと奈落の底に突き落とされたみたいなもんですよ。トヨタ生産方式が褒めちぎられ、慢心して本当の目的を忘れたトヨタになっていたんじゃないでしょうか。私も含めて全員が反省しました。いまは現場で判断するビヘイビア(行動様式)が戻っていると思います。みんなが悩み、もっといい方法だと考えたことをやって、間違えたら直す。それをやろうと、あえて、トップの立場で数値目標を言うのも少し控えています。

――年間の営業利益が2兆円を超えたとき、すでにトヨタがおかしいという声がありました。

 車をつくっているという感覚が、ちょっと薄れていたような気がします。2兆円は結果で、いいクルマをつくるのが目的です。いまは全社員、販売店、仕入れ先も含めて心を一つに、動き出しているところです。

 一例として、車のスポット(溶接)の打点数があります。少ないと原価低減になるので減らす努力は大事ですが、それありきでいくと原価低減を達成したのがいい車となってしまう。だけど、最近はたくさんスポットをやると、車体の剛性が上がっていい車になるという声も生産の技術者から出るようになりました。いまは、どういう立場の人でも、自分ができるいい事が何なのかを考えています。

週刊朝日 2013年2月8日号