旅行作家の下川裕治氏は、週末に手軽に行ける旅を提案するため、タイ・バンコクへ飛んだ。そこでマラソン大会に出場することに。そのユルさや、タイ人独特の考え方、結婚式に関する習慣についてもこう話す。

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 午前4時半にバンコク市街を出発した。30分ほどでスタート会場に着いた。まだ暗い。仮設テントが建てられ、受付がはじまっていた。その横には、ランニングウエアやシューズを売る店が並んでいる。夏祭りの夜店風情である。

 参加費、250バーツ、約700円を払うと、年齢を訊かれた。そして傘とゼッケンを渡された。

 傘は参加の記念品だった。ゴルフ場で使うような大型傘で、「FIGHT AIDS MINIMARATHON 2012』の文字がプリントされていた。『エイズと闘うミニマラソン』といったところだろうか。会場もノンタブリにある保健省の敷地。すでに15回を迎えていた。

 手続きは本当にこれだけだった。もう走ることができる。名前も聞かれない。パスポートの提示も求められなかった。

 参加者にはありがたいことだった。しかし主催者側にしたら出走ぎりぎりまで、参加人数がわからないことになる。傘やゼッケンも多めに用意しなくてはならない。

 タイの結婚披露宴と同じだった。日どりが決まると、新婦や新郎の母親は招待状を知人の家に持参する。僕も何回か受けとった。しかしそのとき、出席するかしないのかを聞かない。日本のように出欠を確認しないのだ。食事や会場の準備もあると思うのだが、そこはタイ式のどんぶり勘定。なんとかなってしまうのである。

 なぜ出欠確認をしないのか、一度、結婚する新婦に聞いたことがある。彼女は4年制の大学を卒業し、日系企業で働く才女である。「それだと、人数をカウントするのが大変じゃないの? 披露宴があることを忘れちゃう人もいるし……」。

 なんと返事をしたらいいのかわからなかった。

週刊朝日 2013年2月1日号