津波、原発事故の影響が色濃く残る福島。作家でありミュージシャンでもあるドリアン助川氏は、自転車で「災後」の東北をめぐっている。福島の若者たちが集う郡山市のソーシャルネットワーキングカフェ「ぴーなっつ」に立ち寄り、再興に向け奮い立つ若者を目にした助川氏。農業について、皆が語っていた姿が印象的だったという。

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 農業。これはもちろん大テーマとなる。除染を進め、放射線が検知されない安全な作物を育てても、福島という生産地名が出てしまえば消費者は背を向けてしまうのが今の日本の現状。農家には厳しい日々が続いている。そこで、こんな喩(たと)え話をする人がいた。

「学校でもらした子は、ずっとそれを言われるんだよね。でも、走るのがすごく速いとか、勉強ができるとか、別の面で知られるようになると…」

 みな。「おっ」と顔を見合わせた。そうだよね。被害が大きいのは確かだけれど、受け身の立場では苦しみが続くばかりだ。ひどい事態でもそれを逆手にとれば、状況は変わるかもしれない。ややあって、一人の農業青年が立ち上がった。

「だったら、俺が世界一のブロッコリーを作る!」

週刊朝日 2012年11月30日号