週刊朝日はB型肝炎の感染歴のある患者が免疫抑制効果の強いがん治療などによって、再び肝炎ウイルスを増殖させ死に至る危険性について警告してきた。しかし、それと酷似したケースで大阪大学病院に入院していた加藤克秀さん(仮名)は、B型肝炎を発症してしまった。本誌2011年11月4日号に掲載された医療連載「新・名医の最新治療」を読んで、病院のずさんな治療に気づいた娘の啓子さん(仮名・42歳)が告発する。

 B型肝炎に感染した経験があるが現在は完治している既往感染者が、がん治療などによって再びB型肝炎ウイルスが活性化するおそれがあると週刊朝日は報じてきた。この再活性化は、血中にウイルスが出現してから肝炎を発症するまで2~3カ月かかる。そのため厚生労働省研究班のガイドライン(治療指針)では、既往感染者に、月1回のウイルスの遺伝子量の検査を求めている。この検査を継続し、遺伝子が一定量以上になれば抗ウイルス剤を投与する。そうすることで、再活性化を防ぐことができるのだ。

 ところが、克秀さんはB型肝炎を発症してしまった。つまり、大阪大学病院はガイドラインを順守していなかったのではないか――。病院への疑念が生じた啓子さんは、母の和代さん(仮名・71歳)らと一緒に、副病院長で、大阪大学医学部血液・腫瘍内科の金倉譲(かなくらゆずる)教授らに緊急の面会を求めた。

「なかなか会おうとしませんでしたが、11月7日に、ようやく金倉教授と担当医師2人との面会が許されました。そのとき、週刊朝日の記事を見せようとしたんです。ところが、金倉教授は『週刊誌なんて信憑性がない』と、記事を見ようともしてくれませんでした」

 言うまでもないが、本誌はこの問題を記事にするにあたり、B型肝炎の再活性化に関する論文を精読し、疑問点は肝臓専門の医師に聞くなど、取材を尽くしている。

 記事を突き返された啓子さんは、それでも「ガイドラインに沿った治療をしていなかったのでは」と食い下がった。すると、金倉教授はこう言ったという。

「ガイドラインは方向性を示すもので、守らなくても法的な罰則はありません」

 この言葉を聞いた啓子さんは愕然とする。「金倉教授は大阪大学病院の医療安全を担当していて、日本血液学会でも理事長を務めている医師です。その医師が、ガイドラインを軽視するようなことを言っていいのでしょうか」。

 納得のいく説明が得られないまま、克秀さんの病状はさらに悪化していき、70歳の誕生日に永眠した。

週刊朝日 2012年10月19日号