日中の溝が深まるばかりの尖閣問題。肝心の着地点が見えない中、台湾漁船など50隻が尖閣諸島へ向かい、日本の領海に入った。9月24日まで、中国、台湾を訪れ、台湾では呉敦義副総統とも会談したという東京大学の松田康博教授(46=アジア政治外交史)は台湾との尖閣問題について、こう語る。

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 あれは台湾政府がやらせたのではありません。漁民たちが「行きたい」と言いだした。燃料費だけでも相当な額になるため、いつもはここで終わるのですが、今回は中国に近い企業グループ「旺旺(ワンワン)集団」が、燃料補助費として500万台湾ドル(約1330万円)を寄付したため、実現したのです。

 台湾の漁民には尖閣諸島の海域に特別な思い入れがあります。日本に統治されていた時代、尖閣諸島は当初、沖縄の一部だったのが、のちに日本が行政区画上、台湾に入れた。だから台湾漁民は尖閣あたりまで自由に行き来し、漁をしていた。台湾は中国とともに尖閣諸島の領有権を主張していますが、実際のところは漁業権の問題が解消できれば、ほとんど文句はないというスタンスです。

 台湾では2009年の世論調査で「あなたの一番好きな国は」との質問に52%が日本と回答しています。2位は米国で8%、3位が中国で5%、と断トツでした。今回のことで「台湾までも反日になったのか」と言う人もいます。でも台湾社会全体としては変わらない。この一件だけで日本への印象が大幅に悪くなるとか、関係を悪くしようということにはなりません。

週刊朝日 2012年10月12日号