政府は9月19日、2030年代に原発稼働ゼロを目指す「革新的エネルギー・環境戦略」を閣議決定するはずだったが、直前に「参考文書」として扱うと方針を変更した。新聞各紙は「原発ゼロあいまいに」などと激しく批判したが、ジャーナリストの田原総一朗氏は、そもそも「この環境戦略自体が矛盾に満ちた見切り発車だったのではないか」と指摘する。

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 現在は総発電量のうち再生可能エネルギーの割合は約10%で、これを2030年までに約3倍にするとうたっている。だが、現在の10%のうち8~9%は水力発電によるもので、太陽光や風力、地熱などでは1%強しかまかなえていない。水力はこれ以上発電量を増やせる見込みは薄く、それ以外を20倍以上も増加させることは、現実的に可能なのだろうか。

 原発の運転期間を40年に制限する「40年廃炉」もうたっているが、どこで、どれほどの時間をかけて、一体誰が廃炉にする作業を担うのか。

 それに「原発ゼロ」によって使用済み核燃料の再処理事業の中止を決めたら、再処理事業を進める青森県六ケ所村は「今後、使用済み核燃料は受け取らない」「(現在受け入れている使用済み核燃料は)粛々と発生元に返還する」と強く主張している。

 私は「なぜこのような矛盾だらけの環境戦略を宣言したのか」と民主党の幹部たちに問うた。9月14日に行われた会議は、かなり激しい議論になったようだ。ある幹部は「泣く子と地頭には勝てない」とうめいた。「泣く子」とは、主に民主党の当選1~2回の議員たちのことだ。

「原発ゼロを宣言しないと、私たちは選挙で落選する。私たちのことなど、どうなってもいいのか」。これが、「原発ゼロ」の決め手になったようだ。

※週刊朝日 2012年10月5日号