一国の首相からの「親書」を突き返すという、外交上、かつて経験したことのない非礼を浴びせかけられた野田佳彦首相は8月24日、「国民に直接、語りかけたい」と自ら会見を開いた。

「毅然とした態度で、冷静沈着に、不退転の覚悟で臨む」

 こう決意を述べる一方、「自国の考える正義を一方的に訴えるだけでは、建設的な議論は進まない」「国際司法裁判所の法廷で議論を戦わせ、決着をつけるのが王道だ」と韓国側に強く求めた。

 最終的に書留郵便で送り返されてきた親書については、そのまま引き取ることで、不毛な応酬にひとまずはピリオドを打った形だ。

「彼は初動において致命的な過ちを犯した。引責辞任、内閣総辞職に値します」

 こう厳しく批判するのは、元駐レバノン大使の天木直人氏だ。

「李明博(イミョンバク)大統領が竹島に上陸した時点で野田首相はただちに面会を申し込み、直接話し合うべきでした。なぜなら昨年12月の首脳会談で、2人は『未来志向で合意した』ことになっている。それを向こうが一方的に破った。侮辱されたわけですから、公の場で異議を唱え、互いに齟齬があるのは日韓関係に良くない、とストレートに訴えるべきでした。なのに、呑気にお盆休みをとって何もしなかった。玄葉光一郎外相も同罪です」

 大統領が竹島を電撃訪問した10日、日本では懸案の消費増税法がようやく成立した。自らの宿願が成就した安堵感に酔いしれていたのか、「遺憾の意」は述べたものの、野田首相の反応はいかにも鈍かった。

 中途半端な「大人の対応」が、敵失に乗じて有利に外交をすすめるチャンスをみすみす逃したばかりか、その後の尖閣諸島の上陸問題など、混乱を大きくしたと天木氏は断ずる。

※週刊朝日 2012年9月7日号