ロンドン五輪が7月27日に開幕した。残念ながら100メートルは5位に終わった水泳・平泳ぎの北島康介選手だが、また200メートル3連覇という夢が残っている。14年間番記者として見続けてきた朝日新聞スポーツ部の堀井正明記者はこうレポートする。

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 ロンドン五輪まで2カ月を切った6月上旬、米カリフォルニア州サンタクララの国際大会に出場した北島康介(日本コカ・コーラ)のレースを見た。4月の日本選手権よりも100メートルは3秒近く遅れ、200メートルは5秒以上も遅かった。

「五輪で世界ランキングなんて意味がない」

 と言い切る北島の目標は「自分を越える」ことにある。シドニー、アテネ、北京と三つの五輪をともに戦ってきた東京スイミングセンターの平井伯昌(のりまさ)コーチのもとを離れ、2009年春に米国に拠点を移す直前のインタビューで、こう語った。

「もう一度、日の丸をつけて泳ぎたい。金メダルや世界記録更新以上の喜びを味わうには、やっぱり自分を越えないといけない。それがどんなに難しいか、よくわかっています。それでも挑戦したい」

 当時は100メートル、200メートルの世界記録保持者。「自分を越える」とは自己ベスト更新だけではなく、平井コーチに頼ってきた自分を乗り越えたい、という自立の意志と受け止めた。

 それは平井コーチが目指してきたものでもある。

 北島の資質を見抜き、水の抵抗を減らす世界一の泳ぎに磨きをかけて、言葉どおり五輪2大会連続2冠を達成した。平井コーチは、私にこんな話をした。

「勝ち続けることでアスリートは尊敬される。楽な練習なんてない。克己心を身につけるための練習がきついのは当たり前。金メダルを取ってからが選手としての収穫期なんだ。康介には世界で多くの人と触れあってほしい。金メダリストにしかできない経験がきっとある。指導者がいなくてもセルフマネジメントできる選手を育てることが、コーチとしての目標だ」

※週刊朝日 2012年8月10日号