慢性心不全の生存率は低いといわれる。血液の流れが悪くなることによって脳梗塞などを誘発し、不整脈が引き金となって心臓突然死を起こす場合もある。だが、それらを防ぐ植え込み型の除細動機能が付いたぺースメーカーが登場し、着実に広がりつつある。

 心不全は心臓の機能が低下し、それにともなって症状が全身に現れてくる。心不全の症状は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)によって分類された症状別表記に基づいて国際的に表されている。心疾患があっても症状がない「クラスI」、横になっていても息切れがしたり、少しからだを動かすだけでも苦痛があったりする「クラスIV」など4段階に分かれる。

 岡山県在住の主婦・吉田静子さん(仮名・当時71歳)は、少し歩くだけでも息切れし、強い倦怠感に襲われていた。安静にしていると楽だが、少し動いただけで疲労、動悸(どうき)、息切れを起こす「クラスIII」に該当した。

 吉田さんの心臓は心室頻脈を繰り返し、悪循環に陥っていた。不整脈を治すβ(ベータ)遮断薬では効果が期待できない状態だった。

 左右の心室を一緒に動かさないと症状は改善しない。そこで機器を使って心室の動きを同期させる心臓再同期療法(CRT)を試みることになった。機器には「両室ペースメーカー(CRT-P)」と、心室細動を修正する植え込み型除細動器(ICD)の横能を併せ持つ「両室ペーシング機能付き植え込み型除細動器(CRT-D)」がある。吉田さんにはCRT-Dを植え込む手術が決まった。

「CRT-PやCRT-Dは患者さんの約7割に有効です。ICD機能の付いたCRT-Dの場合、心臓突然死も回避でき、しかも病状を抑えることができます」(伊藤医師)

 残念ながら、現状では約3割の患者に対して十分な効果が期待できない。この課題を克服するため、関係する医師や医療機器メーカーは治療法や機器の改良を続けている。

※週刊朝日 2012年7月13日号