流暢な日本語を操る好人物として知られていた、中国大使館の李春光・1等書記官(45)のスパイ疑惑。身分を偽って外国人登録証明書を更新したとして、公正証書原本不実記載・同行使と外国人登録法違反(虚偽申請)の疑いで警視庁に書類送検された。

 全容はまだ見えてこないが、どうやら日本の政治家たちを手玉に取った「対中ビジネス」で利権にあやかろうとしていた――というのが真相のようだ。取材を進めると、そこにはジェームズ・ボンドのような華麗なスパイ映画の世界からははど遠い、泥臭いストーリーが浮かび上がってきた。

 李書記官は外交官になってからは、多方面に人脈を築き上げ、中国の経済動向の講演をこなすなど表舞台で活躍する一方、外交官の身分を隠して不正に口座を開設。中国進出を検討している日本企業などから、報酬として計数百万円が振り込まれており、ウィーン条約違反に当たるのではないかと指摘されている。

 しかし、疑惑の"本丸"はそれだけではない。政界が絡んだ、ある「問題」への関与が取りざたされているのだ。

「筒井信隆農水副大臣らが肝いりで推し進めてきた農水産物の対中輸出促進事業があるのですが、実はこの話、李書記官が主導的な役割を果たしていたらしい。事業を通じて、鹿野道彦農水相や筒井氏と近しくなった李書記官が、農水省の機密文書に接触していた疑惑がある。しかも、事業自体の先行きが危ぶまれているのです」(永田町関係者)

 実はこの事業、数々の不透明な経緯もあり、今年に入ってから永田町で「サギまがい」などと書かれた怪文書が出回っていた。週刊朝日(2月3日号)でも、その疑惑を詳報した"問題案件"なのだ。

 筒井副大臣は、その年の12月に中国の国営企業と覚書を交わし、翌年7月に協議会が発足。鹿野グループに属する田中公男氏が代表理事に抜擢され、李書記官は中国大使館側の窓口となった。計画は一見、スムーズに進行しているかに見えた。しかし―――。

 協議会設立時を知る関係者はこう語る。

「将来的に中国に販売ルートを作りたい企業は、強い興味を持って説明会に参加していました。すぐに利益は出ないけど、参加すれば中国のいろんな情報が入るだろうと期待もしていたと思います。しかし、東日本大震災による原発事故の影響で、日本の農水産物が中国に敬遠されるようになり、状況がガラッと変わってしまった。農水産物を扱う企業は、一歩引かざるをえなかったのです。展示会は当初の想定よりどんどん遅れている。ただ、協議会のほうから今後についての具体的な説明がない」

 さらに、筒井副大臣には「機密漏洩」の疑惑の目が向けられている。

 田中代表理事が、筒井副大臣から機密文書であることを示す判子が押された農水省の内部文書を入手し、李書記官にも、田中代表理事を通じて機密が漏洩していた可能性があるという。

 漏洩の事実を一切否定していた筒井副大臣だが、6月1日になって、

「(田中代表理事に)機密という判子を押していない文書に関しては渡しただろうが、ちょっと覚えていない」

 などと発言を翻した。

 中国側から約束を反故にされ、機密情報だけ持っていかれたのだとしたら、政治家としてあまりにも脇が甘い。(【2】に続く)

※週刊朝日 2012年6月15日号