1月6日に細野豪志原発大臣が、原発の運転期間を原則40年にする方針を発表して、これで原発廃絶に向かうかのような論調がマスコミに流布しているが、トンデモナイ解説だ。これは原発の全基"即時"廃止論が高まったために、原発を40年も運転してもよいという延命を目論む謀略なのだよ。現在電力会社と官僚は、ヨーロッパ式のストレステストなるものをすべての原発に適用して、机上の計算で、「運転しても安全である」という結論を出し、原子炉を再稼働するべく着々とそのデタラメ審査を進めている。ストレステストとは、そも一体何であるのか。

 昨年10~12月末に安全評価の1次評価(ストレステスト)を原子力安全・保安院に提出した原子炉11基は、報告順に次の通りで、そこに秘密が隠されている。

 大飯3号機(福井県)・伊方3号機(愛媛県)・大飯4号機(福井県)・泊1号機(北海道)・玄海2号機(佐賀県)・川内1・2号機(鹿児島県)・美浜3号機(福井県)・敦賀2号機(福井県)・泊2号機(北海道)・東通1号機(青森県)

 保安院の審査には数ヶ月かかる見通しで、そのあと原子力安全委員会があらためて審査し、さらに地元住民の同意が不可欠だというので、そうやすやすと再稼働はできまいと国民がタカをくくっていると、トンデモナイことになる。これを食い止めるには、国民が圧倒的な反対の声をあげることが必要になる。

 このストレステストを実施する保安院が、悪の巣窟(そうくつ)で、精神が悪いだけではなく、原子力発電所のメカニズムについてまったく無知な集団である。だからこそ、福島原発事故を起こしてしまったのである。さらにこれをダブルチェックする安全委員会とくれば、フクシマ事故前には、「すべての危険性を考えていたら原発なんか運転できない」とまで暴言していた班目(まだらめ)春樹委員長を筆頭に、何も事故解析ができない集団なのだ。加えて委員たちは、原子力業界から多額の寄付を受けていたことが、今年の年頭から各紙で報道された腐敗集団である。班目春樹が、フクシマ事故のあともなぜ平然と委員長をつとめているのか、こんな馬鹿げた原発の管理体制を理解できる日本人は一人もいるまい。

 それは、現在の野田クズ内閣が、そのように仕組んでいるからである。つまり日本の悪事のすべては、人事によって、勝手に都合よくレールを敷くことが可能なのである。

 ストレステストを終えた原子炉のリストは、見た通り福井県を除くと、予想された通り、日本列島南北の両端に集中している。予想されたというのは、いずれも原発の危険性について子供でも分ることについて、判断する能力のない腐敗した知事や首長のいる地方だからである。北海道の高橋はるみ知事、青森県の三村申吾知事、佐賀県の古川康知事、鹿児島県の伊藤祐一郎知事、この4人が、経済産業省の原発官僚の言いなりになる飼い犬の代表者であることは有名である。政界と官僚によって切り崩されるこれらの道と県が危ないのである。また愛媛県の中村時広知事は、表向きは「伊方原発の再稼働は白紙」と言いながら、最終的に国がお墨付きを与えればそれでゴーサインに踏み切る、という危険な態度だと、県民から批判を浴びている。

 これらに対して、そのほかの原発立地県では、新潟県の泉田裕彦知事と静岡県の川勝平太知事が、再稼働に強く反対して、住民の生命と財産を守ろうとしている。茨城県の橋本昌知事はまったくあてにならないが、東海第二原発をかかえる東海村の村上達也村長が廃炉を請願したので、周辺の自治体も次々に呼応して、強力な廃炉包囲網を形成しつつある。さらに福島県の佐藤雄平知事までもが、福島県内の原発の全基廃炉を明言するところまできた。したがって日本の中心部の原発銀座では、圧倒的に廃炉への動きが明確になってきた。これらの県では、ストレステストの評価報告書が出されていない。
 残る島根県と石川県と宮城県は、首長の態度が曖昧なままはっきりしないが、宮城県の村井嘉浩(よしひろ)知事は、フクシマ事故による県内の放射線測定をやめさせ、住民の大量被曝と、食品の高濃度放射能汚染を隠し続けている人物なので、まったく信用できないが、女川原発は東日本大震災で致命的なダメージを受けたので、運転再開は不可能であろう。

◆「正しい知識」が状況変える力◆

 例外的にストレステストが進んでいる福井県の場合は、西川一誠知事とそのブレーンが新たな安全基準がない段階での運転再開を認めていないにもかかわらず、敦賀市の河瀬一治市長が、玄海町長と並ぶ金権亡者として悪名高い。そして西川知事に対しても、関西電力と、敦賀原発を操業する日本原子力発電が「再稼働を求めて」、年明けから猛烈な働きかけを強めてきた。こうして見ると、そもそも、ストレステストをすれば原発の安全性が保証されるかどうか以前の問題として、官僚と電力会社は、動かしやすい地元の首長を選んだ上で、順次このような安全評価をスタートした感触が強い。つまり経産省が高橋はるみ知事を抱き込んで、昨年8月17日に、北海道泊原発が狂気の営業運転に入ったパターンの再現を狙っているのである。

 昨年末に畑村洋太郎率いる政府の事故調査・検証委員会が出した「福島原発事故に関する中間報告」は、まったく地震の揺れの問題にふれず、事故原因はすべて津波によるものとしてしまい、どうしようもない無内容の報告だ。それは、この委員会の人選もまた、官僚差配の人事によって決められてきたからである。さらにその無能委員たちを取り巻く顧問役が、関村直人をはじめ、みなフクシマ事故後にテレビでデタラメ解説をし続けた原子力工学の専門家と称する集団で、彼らもまた、原子力産業からの寄付金にたかってきた。

 危険性をマスコミが報道しなくなったために、国民が事故の恐怖を忘れつつあるが、こうした絶望的な状況を変える唯一の力は、われわれ国民が「正しい知識」を持って、強烈な再稼働反対の声をあげることにある。そもそも昨年まで稼働中とされた54基のうち、太平洋岸にあった東通原発、女川原発、福島第一・第二原発、東海第二原発の15基が東日本大震災で一挙に全滅し、その前に新潟県の柏崎刈羽原発の3基が2007年の中越沖地震で運転不能になっていた。ちょうど3分の1の18基が、地震の直撃で運転不能になったのである。要するに原発は、強い地震の直撃を受ければすべてだめになることが実証されたのだ。そうした原発のトテツモナイ危険性を、再稼働を迫られている地域から順に、次号からくわしく解説しよう。  (構成 堀井正明)

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ひろせ・たかし 1943年生まれ。早大理工学部応用化学科卒。『原子炉時限爆弾――大地震におびえる日本列島』(ダイヤモンド社)、『二酸化炭素温暖化説の崩壊』(集英社新書)、『FUKUSHIMA 福島原発メルトダウン』(朝日新書)、本連載をまとめた『原発破局を阻止せよ!』(朝日新聞出版)など著書多数

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