9月1日は「防災の日」。関東大震災が発生した日であるとともに、暦の上では「二百十日」にあたり(今年は8月31日)、台風が襲来しやすい時期です。1959年9月26日「伊勢湾台風」によって戦後最大の災害に見舞われたことをきっかけに、その翌年に制定されました。今年の8月は記録的な大雨となりましたが、またどこで大きな災害が発生するか分かりません。近年の気象災害から学ぶべきことをまとめました。

8月13日15時の気象レーダー画像
8月13日15時の気象レーダー画像

「これまでに経験のない大雨」

8月11日から21日頃にかけて、日本付近に長期間停滞した前線の影響を受けて、西日本から東日本の広い範囲で記録的な大雨となりました。広島県、長崎県、佐賀県、福岡県に大雨特別警報が発表され、お盆期間中はシビアな気象状況が続きました。特に、九州北部や山口県、広島県、岐阜県、長野県で観測史上1位の雨量を更新した所が多々あり、土砂災害や浸水害などの被害が多発し、総務省消防庁によると死者12名の人的被害が発生しました。(8月27日時点)

被害に遭われた方々にお見舞いを申し上げますとともに、一日も早い復旧を心からお祈り致します。

近年、西日本から東日本の広範囲に被害を及ぼした災害といえば、平成30年7月豪雨(西日本豪雨)があります。広島県、岡山県、愛媛県を中心に死者・行方不明者は232名に及ぶ歴史的大災害となりました。一部報道では、西日本豪雨に匹敵する大雨として警戒を呼びかけられてきた今回の豪雨。広範囲で見て、2つの大雨の11日間合計の総降水量を比較すると、令和3年8月の大雨での総降水量は西日本豪雨の95%に相当し、総降水量としては匹敵する規模でした。地点ごとに過去の最大雨量と比較すると、令和3年8月の豪雨より西日本豪雨では大幅に記録を超えた地点が多くありました。また、72時間雨量が過去最大値を超え、その比率が1.5倍を超えた所を中心に犠牲者が多数発生していることが分かりました。

雨量そのものの値よりも、その地点における過去最大雨量と比較した方が被害発生との関係性が高いことが分かります。

詳しくは本間基寛気象予報士の執筆レポートをご覧ください。

「(防災レポートVol.15)令和3年8月の大雨における降水量と被害発生の特徴 ~「記録的な雨量」だったが被害が限定的だった理由は?~」

自分の住む場所に、過去にどんな災害があり、どれぐらいの大雨が降ると危険なのか、把握しておくことが重要です。

災害が発生するような危険な大雨が予想される場合には、気象庁から会見が開かれますが、近年毎年のように耳にするのが「これまでに経験がないような大雨が…」「普段災害が起こらないと思われているような場所でも…」というフレーズです。実際に災害が起こった際のニュースでは「自分の居場所は大丈夫だと思っていた。」「こんなことは初めて。」などという住民の方々の声を聞きます。今回の豪雨もそうですが、これまで災害が発生しなかったからうちは大丈夫。という概念は決して持たないでください。災害はいつどこで発生してもおかしくありません。自分が住んでいる市町村のハザードマップを確認しておきましょう。

ハザードマップはお住まいの市区町村で配布している他、インターネットやスマートフォンからでも確認することができます。避難場所や、土砂災害や浸水害などの水害が起こりやすい危険な箇所がまとめられていて、家からどの方角が危険か、どう逃げたら良いかなどを考え、知ることができます。国土交通省 ハザードマップポータルサイトはこちら

短時間で状況が悪化する「線状降水帯」

近年、大雨の際によく耳にする「線状降水帯」。今に始まったわけではなく、前から集中豪雨の際に線状に連なった降水帯が見られる現象は研究者の間で指摘されていました。2014年、77名が犠牲になった広島の土砂災害の頃からニュースや気象情報で頻繁に伝えられるようになりました。近年、甚大な被害をもたらした集中豪雨のほとんどは線状降水帯の発生によるものと指摘されています。

1つの積乱雲の寿命は約1時間で数十メートル程度の範囲に雨を降らせます。1つの積乱雲が発生して風に流され、消えていくのであれば通り雨ですみますが、積乱雲が細長く線状に連なることがあり、この線状にまとまった雨雲を「線状降水帯」と呼んでいます。発生の仕組みは、積乱雲の動く方向の後ろ側に次々と新しい積乱雲が発生することから「バックビルディング現象」と呼ばれます。湿った風と風の収束などによって一つ雨雲の発生しやすい地点ができ、発生した積乱雲が上空の風に流され、その積乱雲からの下降流と風がぶつかり合うことで、また同じ地点で積乱雲が発生して流され…これを繰り返し線状になるというイメージです。線状降水帯は短時間で状況が悪化する恐れがあります。「線状降水帯の発生=危険が迫るような大雨が降る」という認識で安全な場所でお過ごしください。

前線が同じような場所に長い期間停滞し続け、南から湿った暖かい空気が供給され続けるような気象条件になる場合は、どこにいても危険です。気象庁は今年6月から新たに、線状降水帯の有無を知らせる気象情報として「顕著な大雨に関する気象情報」を発表しています。線状降水帯が発生するかも。というような気象情報を聞いた際には、危ない雨を想定してください。危険なキーワードに耳を傾けて、対策をしっかりと行いましょう。

自ら気象情報の取得を

気象庁は災害に結びつくような激しい現象が発生する恐れのある時、1~3日前には「気象情報」を発表します。「大雨と雷及び突風に関する気象情報」などと警戒事項に特化した情報を発表するもので、テレビやラジオなどでも強く警戒を促します。この時点で自分の住んでいるエリアが警戒地域に含まれる場合には、事前にできる対策を行って少しでも余裕をもてるようにしておきましょう。

雨が降りだし警報が発表されたら、避難が必要かどうか考えるスイッチをオンにし、避難に時間がかかる高齢者や体の不自由な方、小さいお子様、ペットがいる方は安全な場所へ早めに移動してください。

更に土砂災害の危険度が高まった場合「土砂災害警戒情報」が発表されることがあります。この情報は、命に危険を及ぼす土砂災害がいつ発生してもおかしくない状況になった際に、避難指示の発令判断や住民の自主避難の判断を支援するために発表される情報です。都道府県と気象庁が共同で発表しています。この「土砂災害警戒情報」が発表されるまでには必ず避難完了することが最も大切です。特に、ハザードマップで災害発生の危険が高い「土砂災害警戒区域」「土砂災害危険箇所」に指定されている場所や、「家屋倒壊等氾濫想定区域」に指定されている地域はもちろん、川の堤防のすぐ近くに住んでいる方は警戒心を常に持って、早めの避難を心がけてください。重大な災害の起こる恐れが著しく高まっている場合に、最大級の警戒を呼びかける「特別警報」が発表されます。直ちに安全確保が必要です。決してこの特別警報の発表を待つことなく、危険を感じたら命を守る行動をとることが必要です。

天気予報の精度は確実に上がり、最近は気象情報もきめ細かくなってきました。その分、聞きなれない情報が増えていると感じられる方もいるかもしれません。「記録的短時間大雨情報」「土砂災害警戒情報」「線状降水帯」…情報がたくさん耳に入る場合は、命に及ぶ危険が差し迫った状況と判断してください。他人事とは決して思わず、身を守る行動をとることが必要です。大雨の中、近所を確認しに行くのは絶対にダメですが、雨の状況や近くの川の水位など、自ら気象情報を確認するということはとても大事なことです。インターネットで自分が閲覧しやすい天気のホームページををブックマークをしたり、お気に入りのスマホのアプリなどですぐ情報が得られるように準備をしておくことは、防災に繋がります。9月は大きな災害が出ないことを願って、事前にしっかりと対策を行いましょう。

警戒レベル4までには必ず避難を
警戒レベル4までには必ず避難を