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松の幹に巻かれた「こも巻き」。害虫駆除というけれど、あの“腹巻き”に効果はあるのか!?

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↑寒さを防ぐ“腹巻き”ではありません。

↑寒さを防ぐ“腹巻き”ではありません。

↑「こも」に巻かれて雪囲い。

↑「こも」に巻かれて雪囲い。

↑ソテツを「こも」で巻いてみました。

↑ソテツを「こも」で巻いてみました。

↑「ヤニサシガメ」の幼虫は益虫で、害虫「マツカレハ」の天敵。害虫を捕食する益虫は焼却しないでほしい…。

↑「ヤニサシガメ」の幼虫は益虫で、害虫「マツカレハ」の天敵。害虫を捕食する益虫は焼却しないでほしい…。

「こも」が雪から守っています。

「こも」が雪から守っています。

冬が近くなると、日本庭園や公園などで、松の幹にワラが巻かれているのを見かけたことはありませんか。あれは「こも巻き」と呼ばれ、日本では晩秋の風物詩となっています。まるで、松の木が冬の寒さに負けないように巻かれた“腹巻き”のように見えますが、実は、防寒用のワラではなく、マツカレハという害虫を駆除するためのもので、江戸時代から続く伝統的な方法なのです。でも、最近の研究によると、「こも巻き」には害虫駆除の効果がほとんどないともいわれています。いったい、この“はら巻き”に、害虫駆除の効果はあるのでしょうか。

「こも」はワラを粗く編んだ「むしろ」のこと。敷き物や雪囲いに使う

「こも」は漢字で書くと「菰」。マコモやワラで編んだ「筵(むしろ)」のことで、農家では昔、冬になると、「こも」を作ると手軽な現金収入になるので、内職として盛んに作られていました。
昔はマコモで作っていましたが、現在ではワラを使うのが一般的で、ゴザなどの簡素な敷き物や、写真のように雪囲いで樹木を覆うときなどに使います。
古くは神事の敷き物として使われていましたが、使い回すのではなく、毎回新しくするのがしきたりでした。天皇や貴族の通路に敷かれたりもしましたが、民間では粗末なものとして扱われていました。

「こも巻き」は、松で越冬する害虫「マツカレハ」の幼虫を誘いこむ“ワナ”

松の幹に巻かれた「こも」は、冬の寒さを防ぐ腹巻きにしか見えませんが、実は、松などの葉を食べる害虫、「マツカレハ」の幼虫(マツケムシ)から松を守るために巻かれているのです。
マツカレハの幼虫は松などの葉を食べて成長しますが、10月も下旬になると、幹から下りて、松の根の際や地上の落ち葉の下などで越冬します。このときに、地上1~2mほどの高さに「こも」が巻きつけてあると、幹づたいに下りてきた幼虫が、越冬のために「こも」に潜りこみます。
春先になったら「こも」をはずし、マツカレハの幼虫ごと「こも」を焼却します(今の時代は外で燃やしたりしませんが)。こうやって、「こも」のすき間で越冬している害虫を駆除する、という方法です。

でも、研究によると、「こも」を巻いて獲れるのは益虫ばかり。害虫は幹の割れ目に潜んでいる…

姫路城と姫路公園には松が約300本植えられていて、毎年11月の立冬から翌年3月の啓蟄まで、約4ヵ月の間、松の幹に「こも」が巻かれていました。姫路工業大学では2002年~2007年の間、これらの約300本の松に巻かれた「こも」をはずず際、1枚ずつ点検し、中の生物をできるだけ詳しく調べました。「こも」には果たして、害虫「マツカレハ」が入っていたのでしょうか…。
調査によると、一番多かったのがクモ類、次いでヤニサシガメで、これら2種類の益虫で57%が占められていました。次いでゴキブリと続き、悪者とされていたマツカレハの幼虫などは、わずか4%にすぎないことがわかりました。さらに、マツカレハは「こも」の中にではなく、主に、「こも」に巻かれた幹の割れ目側に残っている場合が多いこともわかりました。
この調査から、「こも」の中では害虫ではなく益虫が越冬しているので、「こも」を焼却しても害虫駆除の効果はないこと、そして、「こも」を外したあとは、松の幹のほうを点検して害虫を駆除する必要があることがわかりました。
このように、「こも」による害虫駆除の効果に疑問があるためか、皇居外苑や京都御苑をはじめ、浜松市や姫路城では「こも巻き」が中止されているほか、中止を検討している自治体もあるそうです。
〈参考文献:新穂,中居,村上,松村.姫路城のマツのこも巻き調査.日本応用動物昆虫学会大会講演要旨 (51),54,2007-03-01〉
〈参考文献:新穂,中居,村上,松村.姫路城のマツのこも巻き調査(2002年-2007年).日本生態学会全国大会 一般講演(口頭発表) 講演要旨〉

伝統的な「こも巻き」は、晩秋の日本の風物詩。樹木を大切にする“おもてなし”の心かも

「こも」を調べた研究によって、松の幹に巻く“腹巻き”タイプの「こも」は、害虫駆除にはあまり効果がないことが明らかになりました。しかし、樹木全体を「こも」で巻いて霜や雪から守ったり、雪の重みで枝が折れないようにするなど、「こも」は立派に役に立っています。特に、寒さに弱い常緑樹は「こも」が巻かれることが多く、「こも」の代用品として雪囲い用のネットなども利用されます。
害虫駆除に効果がないとはいえ、松の“腹巻き”はまだまだ各地で行われていて、昔から続く晩秋の風物詩です。ワラを樹木の腹に巻いたり、全体を覆ったり。樹木を大切にする日本の“おもてなし”の心がここにも見てとれるような気がします。外国から来た観光客は、「こも」で巻かれた日本の樹木をどのように感じるのか、尋ねてみたいですね。


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