3〜4月にかけてのこの時季、式典に参加する機会が多くなるもの。
そうした場で使用されるクラッシックには、器楽曲、声楽曲、交響曲、現代音楽と様々ななジャンルがありますが、16世紀末~18世紀半ば = バッハ以前)の「古楽」と呼ばれるジャンルをご存じでしょうか。
古楽は、静かで、独特の陰影と響きをもった味わい深い音楽であり、中世西洋音楽、ルネサンス音楽、バロック音楽の総称ともされます
── 今回は、演奏様式の史的考証性が高い「古楽」についてご紹介します。

バロック時代まで「チェンバロ」と呼ばれていた鍵盤楽器
バロック時代まで「チェンバロ」と呼ばれていた鍵盤楽器

バッハ以前の音楽「古楽」

西洋音楽の「古楽」といっても厳密な定義があるわけではありませんが、大きくいってバロック時代(16世紀末~18世紀半ば)以前の音楽を指します。
つまり、中世(11世紀~15世紀半ば)、ルネサンス(15世紀半ば~17世紀)とバロック時代の音楽を指すことが一般的です。
西洋音楽史では「音楽の父」であるヨハン・セバスチャン・バッハ(1685~1750)がバロック音楽を集大成したというのが定説ですから、古楽とは、バッハ以前の音楽と考えていいでしょう。
この時代には現在のようなピアノはまだありませんでした。
バロック時代までの鍵盤楽器は「チェンバロ」と呼ばれました。国や様式の違いによって、ハープシコード、スピネット、クラヴサン、ヴァージナルなどとも呼ばれます。
ただし、これらは鍵盤楽器ではありますが、鍵盤を押すと爪で弦を弾く構造になっているので、ハンマーで弦を叩くピアノとは原理の違う楽器です。
このように「古楽」演奏で使われる楽器は現在のものとは違います。
チェロに似たヴィオラ・ダ・ガンバ、バロック・ヴァイオリン、リュート、リコーダー(ブロックフルーテ)……。これらの楽器は構造も材質も音程も楽譜も違います。

Johann Sebastian Bach(1685~1750)
Johann Sebastian Bach(1685~1750)

古楽の復活

この時代に作られた音楽は当時の本来の楽器で演奏すべきだ、と主張され始めたのは20世紀になってからです。
こうした古楽器(オリジナル楽器とかピリオド楽器と呼ばれます)で演奏される音楽は、19世紀以降の現在の楽器(モダン楽器)によるものとはずいぶん異なる響きを持っています。
現在の耳からはややもすると古めかしい音楽に聞こえるかもしれませんが、単に学問的な「復元」ではなく、静かで、独特の陰影と響きをもった、味わい深い音楽です。
たとえば、バッハの「マタイ受難曲」やヴィヴァルディの「四季」を聴き比べてみると、同じ音楽とは思えないほどです。

卒業式などの行事でよく使われるヴィヴァルディの「四季」
卒業式などの行事でよく使われるヴィヴァルディの「四季」

現在ではすっかり定着した古楽演奏

1960年代以降には、研究も進み、レオンハルト、アーノンクール、ホグウッドといった指揮者が活躍し、古楽演奏は一種のブームとなり、現在ではすっかり定着しています。
モダン楽器による演奏ももちろん素晴らしいのですが、曲によっては現在の楽器と解釈は、ドラマチックすぎるように感じて、古楽のほうが好ましいと感じることすらあります。
日本でのバロック音楽の普及に大きな役割を果たしたNHKFMの長寿番組「あさのバロック」は、現在も「古楽の楽しみ」として聴くことができます(月曜〜金曜 午前6時~6時55分)。
── みなさんも春めいてきた穏やかな静かな朝に、心を落ち着かせてくれる「古楽」を聴いてみませんか。