次第に冷たい風が吹き始め、温かい食べ物が恋しくなる季節・秋。
体は体力を温存させるため自然と温かいものを欲するのですが、そんなときに重宝するのが、街のあちこちにある中華料理店。
カレーと並び、日本人の国民食となったラーメンの器に欠かれた赤い文様、そして「福」の字が逆さまになった赤い小さなポスターやインテリア……。あれはいったい何を意味しているのでしょう?
そんな素朴なギモンについて、漢字遊びの楽しさを交えてお伝えします。

右:「倒福(福が逆さま)=到福(福が到る)」を意味する文様。左:「招財進寶」=どんどん儲かるを図案化した文様
右:「倒福(福が逆さま)=到福(福が到る)」を意味する文様。左:「招財進寶」=どんどん儲かるを図案化した文様

なぜ、「福」を逆さまにしている?

「福」の文字がおめでたいことはわかるけれど、それを逆さまに貼ってしまったら、逆の意味になってしまうのでは?
日本人なら、そんな心配をいだきそうですが、実はこれ、漢字の“音と“意味”を利用した「漢字遊び」のひとつなのです。
中国語で「福」を逆さまにすると、「倒福 = dao fu」となります。
そして、この「倒 = dao」と同じ音を持っているのが、「到 = dao」。つまり、「やってくる」を意味しています。
要は、福がひっくり返るという意味の「倒福」と、福が来るという意味の「到福」は同じ発音であることから、逆さまになった「福」は「福がやってくる」と同じ意味を示す、“しゃれ”になっているのです。

蝙蝠(コウモリ)が縁起がいいとされるのはどうして?

このほかにも、中華料理店のインテリアや器にも、「寿」「喜」などの文字を文様化したものもよく見かけます。
紙切りで表現した飾りものや家具の飾りなどにも、装飾になっていることが多いですね。
これは文字の意味そのものですから、ストレートでわかりやすいのですが、そうした文様と組み合わされてコウモリが描かれているのを不思議に思った人も多いのではないでしょうか。
蝙蝠(コウモリ)というと、日本人の多くが「暗い所に棲息する不気味な生き物」というイメージを抱くのに対して、なぜ縁起物になっているのでしょう?
実はこれも漢字に関係があります。
コウモリを漢字で書くと「蝙蝠」。この発音は「bian fu」。そして、これと同じ発音が「遍福」。
つまりコウモリは「遍福= 福が広くいきわたる」という言葉と、同じ音を持っているのです。
漢字が直接使われているわけではありませんが、このようにしてコウモリのイラストが吉祥の文様として使われているわけです。

中央の円のまわりには、蝙蝠(コウモリ)をデザイン化した文様が
中央の円のまわりには、蝙蝠(コウモリ)をデザイン化した文様が

意味を実現してしまう「文字霊」をもった漢字

蝙蝠(コウモリ)のほかにも、多くの漢字を一つの文字のように組み合わせ文様にしている例もあります。
「招財進寶(宝)」(どんどん儲かる)の場合、「招」の“へん”が、「財」の“つくり”と一体化していて、漢字の一部を共有した図案に。これを「合字」といいますが、「進」の「しんにゅう」がまるで波の間を進む船のようで、全体が宝船のように描かれていることがわかると思います。
このように図案化された漢字は、このほかにも多くありますが、合字ではないものの、日本でも顔の形をひらがなの「へのへのもへじ」で書き表す遊びがあります。40代以上の人なら知っている人も多いと思いますが、時代が変わり、今では小さな子どもさんは「へのへのもへじ」を知らないかもしれません。寂しいものです。
── そのかたち、意味、音を重ねるようにして遊ぶことができる漢字。
漢字には、その意味を実現してしまう「言霊(ことだま)」ならぬ、「文字霊」があるのかもしれません。

「招財進寶(宝)」を一文字に図案化した合字
「招財進寶(宝)」を一文字に図案化した合字