「桜」と聞いてまずみなさんが思い浮かべるのは、どの品種でしょうか。
「やっぱりソメイヨシノ!」という方が多いかもしれませんね。全国の学校や公園、道路などに数多く植えられているので、日ごろ目にすることも多いはずです。
霞がかったような淡い花がぱっと咲いてぱっと散るはかなさが日本人好みともいわれ、愛されているソメイヨシノですが、実は寿命が近いというショッキングな説も……。
満開の桜の下でお花見を楽しめるのはあとわずかなのでしょうか。

改修前の石垣・天守・桜を同時に楽しめるのは今春が最後。現在、100年ぶりに石垣の大改修を進めている弘前城
改修前の石垣・天守・桜を同時に楽しめるのは今春が最後。現在、100年ぶりに石垣の大改修を進めている弘前城

桜の世界ではまだまだ「新人」

日本にはヤマザクラ、オオシマザクラなど9種を基本に、変種を合わせると100以上のサクラが自生。
これらをもとに生み出された園芸品種は200以上もあります。
※ 公益財団法人 日本さくらの会(リンク先参照)
ソメイヨシノは園芸品種のほうで、当時、園芸の町として栄えていた旧上駒込村染井(現東京都豊島区駒込)で、オオシマザクラとエドヒガンを交配させて誕生したのが最有力な説とされています。幕末から明治初旬に桜の名所・吉野山(奈良県)にちなんだ「吉野」の名で登場したものの、山桜が多い吉野の桜との混同を避けるため、明治33(1900)年に地名の「染井」をつけて「ソメイヨシノ」に変更されたそうです。
日本の桜の代表的存在でありながら、生まれてから100年と少し。万葉集などの題材にもなっている自生種などとくらべると、私たちが慣れ親しむソメイヨシノは、まだまだ新参者なのですね。

ソメイヨシノ寿命60年説の根拠

ソメイヨシノはその後、一気に全国に広まります。「20年程度で木の横の広がりが20メートルを超える成長の早さから短期間で名所を作れる」「花弁が5枚一重なのでボリュームが出て、花見にいい」「苗木が安い」などが有力な理由のようです。
その一方で、病気に弱い性質も持つソメイヨシノ。折れた枝や枝の切り口から幹を腐らせる菌が侵入しやすく、樹齢50年を超えると幹の内部が腐ることから、「60年で寿命を迎えてしまう」という説も囁かれています。また、種で増えることができない園芸種のため、自然に新しい木が増えることもありません。
第二次世界大戦からの復興や東京オリンピックに合わせて植えられたものが多いことを考えると、心配な時期ですね。
少し話はそれますが、気象庁が桜の開花予想の基準としているのもソメイヨシノです。全国にたくさんの木があるという理由もありますが、接ぎ木などで増やすために遺伝的にほぼ同じで、気候の変化による開花の様子が均一なためです。

まだまだ元気!日本最古のソメイヨシノ

全国各地のソメイヨシノが危機を迎えているともいわれるなか、まだまだ元気なソメイヨシノがあります。青森県弘前市にある弘前城は、“日本一”と名高い桜の名所。樹齢100年を超える古木が300本以上もあり、よく手入れされ、いずれも元気なことが特徴とされていますが、これには理由があります。
昔から「桜切るバカ、梅切らぬバカ」という言い伝えもあり、切り口から病気に感染源するのを防ぐために傷つけず育てるのが常識でしたが、弘前城では1960年頃からりんご栽培のノウハウを生かして積極的に剪定する方法を採用。その結果、木の勢いを保ち、たくさんの花を咲かせることに成功しました。
以来、剪定方法に加えて殺虫剤の使い方や肥料の与え方、土の入れ替えなども工夫する「弘前方式」の管理法を取り入れたことで、元気を取り戻していたった全国各地のソメイヨシノ。どうやら「寿命60年」という説は、何も対策を取らなかった場合の話といえそうです。

お花見のマナーも未来を守る

きちんと手入れすれば大丈夫と知ってホッとする一方、大気汚染や根元の舗装など、ソメイヨシノが過酷な環境に置かれていることもまた事実。
枝を折るのは問題外として、お花見のときも枝や花に煙がかかるバーベキュー、雑菌を繁殖させるゴミの放置、さらに、木の下で遊んだりする何気ない行動も、根を傷め、木を弱らせる原因に。美しい花を少しでも長く楽しむためには、私たち一人ひとりのちょっとした心がけや気配りが必要なようです。