朝日新聞が従軍慰安婦問題を巡る記事の誤りを認め、一部撤回した。大きな波紋を呼んだ今回の総括だが、ジャーナリスト田原総一朗は、さらに注文をつける。

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 朝日新聞の8月5日の「慰安婦問題」に対する総括報道に対して、各週刊誌が次のような見出しを掲げ、一斉に激しい批判記事を掲載した。

「世界中に『日本の恥』を喧伝した『従軍慰安婦』大誤報 全国民をはずかしめた『朝日新聞』七つの大罪」(週刊新潮)

「朝日新聞よ、恥を知れ! 『慰安婦誤報』木村伊量社長が謝罪を拒んだ夜」(週刊文春

「世界がこの大嘘を根拠に『日本を性奴隷国家』と決めつけた 朝日新聞『慰安婦虚報』の『本当の罪』を暴く」(週刊ポスト)

「『従軍慰安婦』記事を30年たって取り消し 日本人を貶めた朝日新聞の大罪」(週刊現代)

「『慰安婦誤報』32年間放置の果てに『大特集遺言』を残して逝った『国賊メディア』朝日新聞への弔辞」(アサヒ芸能)

 朝日新聞は総括報道を行った以上、こうした批判は当然、予測していたであろう。

 32年もたっての総括というのは、誰だって遅すぎると思うだろうし、また明らかに誤報だったことを認めながら謝罪の言葉がなかったのは違和感がある。「女子挺身(ていしん)隊」の記事を書いた植村隆記者に「意図的な事実のねじ曲げなどはなかった」としているのも納得しにくい。

 だが、こうした問題はありながら、今回の各週刊誌の朝日新聞たたきには、見逃すわけにはいかない共通点がある。

 それは、朝日新聞が「世界中に『日本の恥』を喧伝した」「国賊メディア」で、いわば「売国的」なメディアだと決めつけていることだ。言ってみれば、現在の朝日新聞批判は、いずれも強いナショナリズムがバネとなっているのである。

 私は、わずかではあるが第2次世界大戦中の世論を知っている。戦争への批判はもちろん、食べものが少なくなること、空襲が激しくなること、男の先生が出征して授業が埋まらないことなど、いかなる批判も許されなかった。ナショナリズムに裏打ちされた愛国心を散々強要されたあげくの敗戦であった。

 こうした体験を持ったがゆえの偏見なのかもしれないが、私はナショナリズムには拒否反応を覚えてしまう。そして、朝日新聞批判に強いナショナリズムを感じるがゆえに、「朝日新聞よ、頑張れ」と言いたくなるのである。

 その朝日新聞に注文がある。

 私は朝日新聞が総括報道を行った翌日から、通常よりも熱心に紙面を読むようになった。

 あれだけ大々的に総括報道を行ったのだから、当然ながらさまざまな反応が生じるはずである。そして、そうした反応は電話やメールもあるだろうが、数多くの投書のかたちでも示されているはずである。私自身、テレビ番組をオンエアした後に、電話やツイッターなどの反応を細かく点検している。総括報道に対する週刊誌の反応は、いずれも大批判であったが、投書にはそうでない反応も数多くあるはずである。

 そうした投書が読みたいのだが、検証記事の掲載以後、それに対する投書というものが一通も掲載されていない。これはどういうことなのか。当然ながら大量の投書が来ているはずで、総括報道を行ったのだから、朝日新聞としては、できるかぎり多くの投書を掲載することが読者に対する責任だと思うのだが、この点はどうなっているのか。

週刊朝日 2014年9月5日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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