働く女性への支援策や育児支援策を掲げる安倍政権。しかし依然として、働く女性は過酷な現状と向き合っているようだ。

「すみません。体調が悪いので休ませてほしいのですが」

 当時IT企業に勤めていたA子さん(36)は、妊娠中、つわりがひどい上に不正出血もあったので、職場に電話すると、上司からいちいち嫌みを言われた。

「えっ、また。うちの奥さんそんなことなかったよ」

 妻が専業主婦の40代の男性上司は、妊娠も出産も万事スムーズだった妻しかサンプルがないため、A子さんの体調に全く理解なし。ちょうど、ウェブのリニューアルやサービス立ち上げなど忙しい時期とも重なった。

社員230人ほどで、上司の人格が職場全体に影響を及ぼす古い体質の会社。A子さんは産後に復帰するのをためらったが、それでも仕事を続けたのは、自分で稼ぐことのかけがえのなさを知っていたからだ。専業主婦だった母は、父と折り合いが悪かったが、経済力がないため離婚もできなかった。自分は母のようになりたくないと幼い頃から思っていた。

 だが、復帰すると疲労やストレスは予想以上だった。娘から風邪をうつされ咳が止まらなかったが、自分の体調不良では休めないと、無理して出勤を続けたら、悪化して肺炎に。ママチャリで保育園の送り迎えをする時、仕事のトラブルで頭がいっぱいで、事故を起こさないかとヒヤヒヤすることもしばしばだった。起業家の夫は妻が働くことに理解はあったが、激務で、家事育児はほぼ彼女が背負うしかなかった。

 復帰後は時短勤務で、手取りの月給は出産前の3分の2程度の20万円ちょっと。認証保育園の料金が月7万5千円ほどかかったので、その差額を日割り計算すると、1日あたり給与は約6千円。それだけのお金を得るために、娘との貴重な時間を差し出し、多大なストレスと体調不良を抱え、スーパーのお総菜で手抜きの食事をするしかないのかと思うと、「割に合わない」と感じた。

 A子さんは出産から職場復帰して1年3カ月後の昨年、我慢も限界に達し、会社を辞めた。あれほど母のようにはなりたくないと思っていたのに、いまでは「専業主婦」だ。

「女性が仕事バリバリ路線に行っても損するだけなので、娘には高い教養と知性を身につけて、結婚市場でも高値で売れて、いつでも専業主婦になれるようにしてあげたい」

 いまの子育て世代の女性たちは、専業主婦にしかなれなかった母親から、女性も外で働いて自活することが大事だ、と育てられた人が多い。それなのに、その娘世代は職場で疲弊し、子育てと仕事の両立の壁に阻まれ、「専業主婦のほうが得」と思う人さえいるのが現実だ。

AERA  2013年7月15日号