『クーリン・アンド・グルーヴィン』バーナード・パーディー
『クーリン・アンド・グルーヴィン』バーナード・パーディー

 1993年、来日ジャズ・アーティストの参加作は前年から12作減の30作だった。ホール録音を含むスタジオ録音は12作、日本人との共演は10作で8作は和ジャズだ。ライヴ録音は18作、日本人との共演は8作でいずれも和ジャズだ。後者と長期滞日者の1作を外し候補は9作に。取り上げるのはバーナード・パーディー『クーリン・アンド・グルーヴィン』、ジミー・スミス『ザ・マスター』の2作だ。選外作の評価や選外要件は【1993年 選外リスト】をご覧ください。なかでは、万人向けとは言えないフリー・インプロヴィゼーションとあって選外とした姜泰煥&サインホ・ナムチラク『ライヴ』が快ライヴだった。耳の柔軟な方は聴いてほしい。では、バーナード・パーディー盤から。

 ファンク大将、バーナード・パーディー(ドラムス)の初来日は1993年1月とする記事を見かけたが、自身のグループを率いての初来日というのが正しい。古いところでは1975年8月にジェフ・ベック・グループの一員として来日していて、これらを含めて来日は少なくとも11度に及ぶ。なかでも1993年では2度目となる7月の来日公演が顔ぶれも演奏もピカイチとの評判が高い。推薦盤は渋谷「オン・エアー」で収録された。1月のライヴ盤(【選外リスト】先頭行)も発表されているが、ややフュージョン寄りで大将とジェフ・レヴィン(オルガン)を除いては壺にハマらず、今一つピリっとしない。聴かねば恥というほどのものではないだろう。推薦盤は星一つは優に勝る傑作ライヴだ。

 パーソネルを見ただけで目眩しそうになる。トランペットはローランド・カーク率いる「ヴァイブレーション・ソサエティ」の準構成員で灼熱のツバをまき散らすヴァージル・ジョーンズ、アルトサックスのミスター・アリゲイター・ブーガルー?は誰あろうルー・ドナルドソン御大、オルガンはクール・ファンクの雄、ソニー・フィリップス、ギターは病気降板したコーネル・デュプリーの代打でデヴィッド・T・ウォーカー師匠、ベースはソウル&ファンクをともに支えてきたチャック・レイニー、パーカッションはレイニーと同じくキング・カーティスの「キングピンズ」時代からの盟友、パンチョ・モラレスと、楽歴不詳のテナーサックスのビル・ビヴェンズはさておき、豪華絢爛強力無比の布陣だ。

 アーチー・ベル&ザ・ドレルズの《タイトゥン・アップ》で幕開け。万雷の喝采のなかレイニーがリフを刻みだし、ウォーカー、パーディーが合流、大将の乗りのいいメンバー紹介が興奮を煽る。ゴキゲンなソロが連続し、誰もが腰を揺らす最高の幕開けとなった。

 アラン・トゥーサン作の《エヴリシング・アイ・ドゥー・ゴナ・ビー・ファンキー》はルーの持ちネタ。御大のヴォーカルのあと、スタッカート基調で攻め立てるウォーカー、伸びやかなルー、次第に熱気を帯びるフィリップスと続く、ファンキーな快演になった。


 マーヴィン・ゲイの《ホワッツ・ゴーイング・オン》ではウォーカーをフィーチャー。いぶし銀のトーンでチョーキングやトリルを交え、時にスウィートに時にビターに綴り、渾身のカデンツァで結ぶ。代打が奏功、ウォーカー節に酔いしれる至福の一曲となった。

 エロール・ガーナーの《ミスティ》はルーをフィーチャーしたチェンジオブペースだ。御大はこの名バラードを年季もののジャズ魂でソウルフルに歌い上げる。エンディングの循環呼吸法はご愛敬だが、フィリップスの壺を心得た助演も光る格好の箸休めとなった。

 ルー作の《ウイスキー・ドリンキン・ウーマン》は御大とウォーカーをフィーチャー。朗々たるアルトサックスに続いて披露する喉は余芸の域だがウィットに富み頬がゆるむ。ウォーカーのねちっこいソロを挿んで結びも歌で通す。なんとも憎めないおっちゃんだ。

 ジェームス・ブラウンの代表曲《コールド・スウェット》はウォーカー、ビヴェンズ、レイニー、パーディーをフィーチャー。主役級のウォーカーを前後にそれぞれが気合いと熱気に満ちたソロを繰り広げ、《ホット・スウェット》と呼びたくなる大熱演になった。

 ラストはルーの代名詞《アリゲイター・ブーガルー》だ。御大をはじめ、ビヴェンズ、ジョーンズをフィーチャー。それぞれが持ち味を発揮したソロをタップリ聴かせたあと、再びパーディーの格好いいメンバー紹介が続き、やんやの拍手喝采のうちに幕が下りる。

 このうえないグルーヴ供給源としてのパーディーとレイニーを別格とすれば、この夜のヒーローはウォーカーだろう。《ホワッツ・ゴーイング・オン》を筆頭に心底しびれた。余裕綽々としたルーが続き、過不足のないプレイに膝を打つフィリップスがめっけもの。ソウル~ジャズ・ファンクの名手が打ち揃った屈指の名ライヴとして強力にお薦めする。中古盤には法外な値段が付いていて再発を待つしかなさそうだ。それまではYouTubeで。

【補記】
 年度の初回は来日したアーティストの組数とスタイル別の順位をあげてきたが、今回は見送らせていただいた。元ネタにしてきた「スイングジャーナル」増刊「モダン・ジャズ読本」等(注)掲載の「来日ジャズメン一覧」が1994年版(93年12月発行)には未掲載なのだ。本誌からの洗い出しも試みたが質量ともに同じ水準にはならず断念した。なお、前年の1992年は216組で、翌94年は142組の見込みだ。1991年から減少が続いていて増加は考えられず、142~216組の間に収まるとみていいだろう。

注:同誌年末恒例の増刊はモダン・ジャズ読本(~82年)、ジャズ読本(~85年)、ジャズ・ブック(~91年)、JAZZ BOOK(~93年)、モダン・ジャズ読本(~01年)、ジャズ読本(~09年)と変遷し、「来日ジャズメン一覧」は98年版で最後となった。

【1993年 選外リスト】fine>good>so-so>poor
Bernard Purdie's Jazz Groove Sessions in Tokyo (Lexington/January 26-28) good
GRP All-Star Big Band Live! (GRP/January 31) good+
Live/Kang Tae Hwan & Sainkho Namtchylak (FIN/March 8) fine, free improvisation
100 Gold Fingers: Piano Playhouse '93 Vol.1/Various Artists (All Art/June 5) good+
100 Gold Fingers: Piano Playhouse '93 Vol.2/Various Artists (All Art/June 5) good+
Tokyo Live-The Free Spirits featuring John McLaughlin (Verve/December 16,18) good+
The Master II/Jimmy Smith Trio (somethin'else/December 24-25) fine-

【収録曲】
Coolin' 'N' Groovin' - A Night at On-Air

1. Tighten Up 2. Everything I Do Gonna Be Funky 3. What's Going On 4. Misty 5. Whisky Drinkin' Woman 6. Cold Sweat 7. Alligator Boogaloo

Bernard Purdie (ds), Virgil Jones (tp), Lou Donaldson (as), Bill Bivens (ts), Sonny Phillips (org), David T. Walker (g), Chuck Rainey (el-b), Pancho Morales (per).

Recorded at On-Air, Shibuya, Tokyo, July 1993.

【リリース情報】
1993 2LP/CD Coolin' 'N' Groovin' - A Night at On-Air (Jp-Lexington)
1993 VHS  Coolin' 'N' Groovin' - Jazz Funk Live! (Jp-G.I.G.BOX)
1994 CD   Coolin' 'N' Groovin' - A Night at On-Air (US-West 47th)
2005 DVD  Coolin' 'N' Groovin' - The Legendary Soul Jazz Session (Jp-Lexington)

※このコンテンツはjazz streetからの継続になります。