第52回 『ピアノ・デュオ・ライヴ』マル・ウォルドロン&山下洋輔 |AERA dot. (アエラドット)
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第52回 『ピアノ・デュオ・ライヴ』マル・ウォルドロン&山下洋輔

文・林建紀

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 1985年は前年から13組増の延べ76組(4組は二度)が来日した。この年もまた20組のフュージョン/ニュー・エイジ系が首位を守り、17組の新主流派/新伝承派、14組のフリー系、12組の主流派、6組のヴォーカル、5組のディキシー/スイング、2組のビッグバンド(スイング、モダン)が続く。野外フェスでは「ライヴ・アンダー・ザ・スカイ」と「ニューポート・ジャズ・フェスティヴァル・イン斑尾」が開催された。サド・ジョーンズ率いるベイシー楽団(11月)しか観ていない。心残りは、ペドロ・アズナール(ヴォイスほか)を擁した黄金期の「パット・メセニー・グループ」(9月)だ。

 来日数とともに録音数も前々年の水準に戻った。29作ある。スタジオ録音は21作、日本人と共演したリーダー作/ゲスト参加作は13作あり、12作は和ジャズだ。ライヴ録音は8作、半数は日本人との共演作で、1作が和ジャズだ。同作と、一次審査の結果、グレイト・ジャズ・カルテットの『ライヴ・イン・ジャパン』は躊躇なく、自主制作級のアナログ盤とあって激レアのフリー系3作(注)は泣く泣く外した。候補作はデューク・ジョーダンの『チョコレート・シェイク』、どちらも新宿「ピット・イン」で録音された『エルヴィン・ジョーンズ・ジャズ・マシーン・ライヴ・アット“ピット・イン”』と、マル・ウォルドロンと山下洋輔の『ピアノ・デュオ・ライヴ』だ。結局、ジョーダン盤とエルヴィン盤は好ライブとはいえ今一押しを欠いて見送った。なあに、二人にはこの先に文句なしの名ライヴが控えている。ここはマルと山下の共演盤にとどめさせていただく。

 1970年2月の初来日は私的旅行で本格的な公演はなく、ジャズ誌のインタビュー、ミニ・コンサート、2作のスタジオ録音で終わったとある。とすると、母校の学生会館で観たのは1年後の再来日時か。ともあれ、再来日時の奮闘ツアーでマル人気に火がつく。「黒い情念」がゆえに、コルトレーンともども「政治の季節」の象徴だったように思う。1985年の時点で8度の来日、86年以降も10度を超えるのでは。多くは単独行だ。録音も多く残していて、スタジオ録音が16作、ライヴ録音が10作ある。前者の6作と後者の2作はゲスト参加作だ。ここまでのライヴ録音3作は入手難のアナログ盤とあって取り上げられなかった。日本女性と再婚もした親日派の名ライヴをようやく紹介できる。

 1985年の来日時は、8月21日から25日と9月17日の6日間にわたって、新宿「ピット・イン」で、日毎に顔ぶれの異なる日本人ジャズメンとガチンコ・セッションを繰り広げた。推薦盤は最終日の9月17日に催された山下とのデュオをとらえたものだ。

 収録曲《デュオ・インプロヴィゼーション パートⅠ》はファースト・セットの頭で、《同パートⅡ》《マイ・オールド・フレイム》はセカンド・セットの前半で演奏された。 個々の展開や内容については解説不要かつ不能、これはもう聴いていただくのが一番だ。予想される丁々発止、剣豪師弟の火花を散らす対決の趣きはない。師弟になぞらえれば、巨大なモニュメントを彫り上げるべく手を携えて巨石に立ち向かう二人といったところ。パーカッシヴな奏法は共通し、マルへのトリビュート作すらある山下は師匠の手のうちを知り尽くしてはいるが、互いに迎合や妥協はない。とはいえ、脇目も振らず自己の表現に徹しているわけではなく、同化もあれば対照もあれば衝突もある。無闇な挑発ではない、認め合った、師匠から弟子への、弟子から師匠への、触発の連鎖が大きなうねりとなって押し寄せる。創造的音楽が生み出されていく瞬間々々を目の当たりにできる快ライヴだ。

 この二人だからフリーっぽいのでは? と懸念される必要はない。そうしたアプローチが微塵もないわけではないが、総じてビートの定律性も調性もあって馴染みやすいだろう。収録曲は18分、28分、18分と、いずれも長尺だがスリリングな展開で飽かせない。とはいえ、息を付く暇もないほどハードで重苦しい演奏などではなく気軽に手が伸びる。後にも先にも一度発売されたきりだが入手は容易だ。リンク先では少数につきご留意を。[次回7/13(月)更新予定]

※注:うち、バリー・ガイ(ベース)の『アシスト』、エヴァン・パーカー(サックス)とバリー・ガイの共演盤『対局』はYouTubeでその一端に触れられる。一聴をお勧めする。


【収録曲】
Piano Duo Live at Pitt Inn / Mal Waldron & Yosuke Yamashita

1. Duo Improvisation Part I 2. Duo Improvisation Part II 3. My Old Flame

Recorded at Pitt Inn, Shinjuku, Tokyo, on September 17, 1985.

Mal Waldron, Yosuke Yamashita (p).

【リリース情報】
1986 CD Piano Duo Live at Pitt Inn / Mal Waldron & Yosuke Yamashita (Jp-CBS/Sony)


※このコンテンツはjazz streetからの継続になります。


(更新 2015.6. 8 )


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プロフィール

林 建紀(はやし・たつのり)

 ジャズ研究家/翻訳家。com-post同人。1950年生まれ。同志社大学軽音楽部出身。著書に『週刊ラサーン ローランド・カークの謎』(プリズム・ペーパーバックス)、訳書に『ローランド・カーク伝 溢れ出る涙』(河出書房新社)、共著に『JAZZ TRUMPET』『JAZZ PIANO』『JAZZ SAX』(シンコーミュージック)、『読んでから聴け! ジャズ100名盤』(朝日新書)などがある。Twitterのアドレスはhttps://twitter.com/#!/tahsaan_h

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