『Overseas Special』Monty Alexander/Ray Brown/Herb Ellis
『Overseas Special』Monty Alexander/Ray Brown/Herb Ellis

 1982年は前年から微増の延べ78組(4組は二度)が来日した。隆盛を誇っていたフュージョン勢に暗雲が立ち込める。前年の25組から16組に減少、23組の主流派に首位を渡し、12組のヴォーカル、11組の新主流派/新伝承派、7組のモダン・ビッグバンド、各4組のトラッド/スイング、フリー、1組のスイング・ビッグバンドが続く。恒例の「ライヴ・アンダー・ザ・スカイ」は中止となったが、「テクニクス・ジャパン・ジャズ」「ニューポート・ジャズ・フェスティヴァル・イン・斑尾」「別府国際ジャズ・フェスティヴァル」「オーレックス・ジャズ・フェスティヴァル」が大観衆を動員した。所帯を持った年とあってか、2月の「マントラ」と3月のベイシー楽団しか観ていない。今さらだが、2月の「ステップス」、5月の「ICPオーケストラ」、9月の「ジャコ・パストリアス・ビッグバンド」、10月の「クエスト」あたりは少なからず悔やまれる。

 来日中に35組が45作を録音した。前年に比べて頭数で25%、作品で36%増だ。スタジオ録音は23作ある。日本人と共演したリーダー作/ゲスト参加作は17作あり、うち10作が和ジャズだ。ライヴ録音は22作ある。日本人との共演作は8作あり、うち2作が和ジャズだ。和ジャズ、未CD化、販売数が僅かで入手が絶望的なもの、どこにも見当たらないものを除外し、12作をふるいにかけた結果、5作が残った。豊作である。モンティ・アレキサンダー『オーヴァーシーズ・スペシャル』(Concord)、ミシャ・メンゲルベルク&ICPオーケストラ『ヤーパン、ヤーポン』(Jp-DIW)、ライオネル・ハンプトン『エア・メイル・スペシャル』(Jp-Paddle Wheel)、デューク・ジョーダン『ソー・ナイス・デューク』(Jp-Three Blind Mice)、ジャコ・パストリアス・ビッグバンド『ツインズ』(Warner Bros.)だ。まずはモンティ『オーヴァーシーズ・スペシャル』から。

 モンティが名をあげたのはピーターソンの推挙でMPS入りしてからのことで決定打は1976年のトリオ作『モントルー・アレキサンダー・ライヴ』だったが、ごく私的には1979年のコンコード移籍作『ファセッツ』だった。巻頭《ジョニーが凱旋する時》の淀みないスイング感と歌心には大いに感心し、ナット・キング・コール、ピーターソン、アーマッド・ジャマルに連なるハッピー・ピアノの再興か! と小躍りしたものだった。

 1979年1月に初来日、早くも1980年6月に再来日している。推薦盤は三度目の来日時に六本木「サテンドール」でライヴ録りされた。ハーブ・エリスのギターにレイ・ブラウンのベース、初期のピーターソン・トリオを支えた両雄と組んだオールドモデルのトリオはその再編をも思わせる。来日中にスタジオ作『トリプル・スレット』も残した。1984年にアナログ盤とカセットテープで発売され、1996年にCD化されている。

 前半は、モンティが縦ノリでぐいぐいドライヴしてピーターソン・トリオを彷彿させるミディアム・スインガーの《バット・ナット・フォー・ミー》、エリスがほぼ前面に出て暖かく艶やかなトーンで佳曲を慈しむように綴るスロウ・バラードの《タイム・フォー・ラヴ》、《夢から醒めて》を思わせるエリス作で、モンティが《A列車で行こう》も交えハッピー・ピアノの粋を尽くすファスト・テンポの《オレンジ・イン・ペイン》が並ぶ。

 後半は、レイからロリンズへの《ドキシー》風の捧げもので、モンティがご機嫌なことこのうえないミディアム・ファストの《F.S.R.》、モンティがキビキビとしたなかにも深いエモーションで胸を打つミディアム・バラードの《フォー・オール・ウィ・ノウ》、モンティのソロのバックでドスンドスンとブチかますレイに惚れ惚れし、三者それぞれの鍛えあげたブルース魂に感服せずにいられないミディアムの《C.C.ライダー》と続く。

 いずれ劣らぬ快演と佳演の連続にあっという間に時がたち物足りなく覚えるほどだ。もちろん革新的でもさして創造的でもない。名人上手の競演にただただ相好を崩すのみ。朝一で聴けば一日ハッピーに過ごせるだろう。録音も立派で臨場感に溢れる。壺を心得、心からなる拍手喝采を送る聴衆も素敵だ。例によって入手難だが、中古のアナログ盤なら1500円ほどで見かけたことがある。探してみては。これを聴かない手はないだろう。[次回12月15日(月)更新予定]

【収録曲一覧】

Overseas Special / Monty Alexander - Ray Brown - Herb Ellis (Concord)

1. But Not for Me
2. A Time for Love
3. Orange in Pain
4. F.S.R.
5. For All We Know
6. C.C. Rider

Monty Alexander (p), Herb Ellis (g), Ray Brown (b).

Recorded at Satin Doll, Roppongi, Tokyo, March 1982.

※このコンテンツはjazz streetからの継続になります。