ジャック・ジョンソン/マイルス・デイヴィス
ジャック・ジョンソン/マイルス・デイヴィス

 トッポい感じのあんちゃんが、「ソフトモヒカンにしてくれ」といってJimmyJazzに入ってきた。あご髭は剃らずに残してほしいと、今どきの”チョイ悪”風で、当店では特に珍しくもない光景である。

 散髪が終わって、コーヒーを飲みながらカルテに記入してもらっていると、「ジャズで、何かおすすめのCDとか、ありますか?」と、これまたよくある質問をされた。マイルス風のトンボみたいなサングラスをかけているから、マイルス・デイヴィスがいいと思いますよと応えたら、「マイルスなら全部これに入ってる!」自慢げに彼は、ずいとiPhoneを差し出した。

 すごいな、最近のスマートフォンは、マイルスが全曲入るほど大容量なのかと感心しながら覗いてみると、『Miles Davis Best』!!しかもご丁寧に二枚組みときている。いくらスマホでも、CD二枚分でマイルス全部が収まるとは思えないのだが…。

 おっ、わたしの好きなルー・ドナルドソンも入ってるじゃないですか!?どれどれ…、『Lou Donaldson Best』!!どうやら彼はベスト盤がお好きなようである…。

 しょうがないので、中山康樹著「マイルスを聴け!」のページをめくって、これなんかカッコイイと思いますよ、と『ジャック・ジョンソン』をお薦めしておいたのだが、果たして気に入ってくれるだろうか。ベスト盤じゃないから少し心配である。

 冗談はさておき、わたしはこの『ジャック・ジョンソン』を初めて聴いたときに、なんじゃこれは?高校の軽音楽部の練習みたいだなと思ったことをここで白状しておこう。

 マイルスのレコードのなかでも、最もロックに近い感触をもつ「ライト・オフ」は、逆説的だが、ロックと思って聴くとつまらない演奏なのである。ラフだし、無駄な繰り返しが多く、タイトさに欠ける。

 しかし、ほんの少~し立ち位置をずらして、ジャズの視点から演奏を見て(聴いて)みると、俄然面白くなってくるから、まるで「だまし絵」のようじゃないですか。まず、なんといってもマイルスのオープントランペットが良い!最も脂の乗った時期の演奏だけに、美しい音色に、力がみなぎっていて、これだけでご飯三杯はいける。

 偶然通りかかったハービー・ハンコックに、無理矢理弾かせたというオルガンも、素人の手探り的な演奏から、とってもスリリングなアドリブへと昇華したようだ。

 もうひとつ、『ジャック・ジョンソン』攻略のために重要なポイントがある。ジョン・マクラフリンのギターサウンドだ。パワーコードをかき鳴らすマクラフリン。倍音がきちんと再現されないオーディオシステムで聴くと、どうにもヘタクソなギタリストに聞こえてしまうのだ。軽音の高校生か、それともスーパーギタリストかを分けるのは、このサウンドにかかっているといってもいいくらい。

 そんな、オーディオ装置によって演奏の上手い下手が変わるわけねーだろというそこのアナタ!オーディオでも音程が変わったり、演奏内容が微妙に変化することが実際にあるのです。

 もっとも、スマホやiPodのような単純な回路で、そう極端な差が出ることはないと思うけれど…。『ジャック・ジョンソン』、薦めたはいいが、だんだん心配になってきた。

【収録曲一覧】
1. Right Off
2. Yesternow