水野美紀
水野美紀「髭、ロン毛、メガネの夫の中には乙女が棲んでいる」クリスマスが教えてくれた我が家の現実
水野美紀さん
42歳での電撃結婚。伝説の高齢出産から4年。母として、女優として、ますますパワーアップした水野美紀さんの連載「子育て女優の繁忙記『続・余力ゼロで生きてます』」。今回は、クリスマスケーキについての妄想とクリスマスの思い出、そして乙女な夫についてお届けする。
* * * 年の瀬も押し迫ってまいりましたね。クリスマスにお正月。
独身の時には全くテンション上がらなかったイベントだけど、家族ができてからは、ちゃんとお祝いするようになった。
自分のために何かする気にはならないが、身近な人の喜ぶ顔を見たいと思ったらやる気が出て来たってことだろう。
クリスマスケーキをネットで物色するのも楽しい。どれも趣向が凝らされていて、見ているだけでワクワクしてくる。高級ホテルのケーキなんてうっとりするほど美しい。芸術品だ。
これが我が家の食卓に並んだ姿を想像する。
見た瞬間「わー」と顔を輝かせる我が子。
夫は「えー、高そう、これいくらするの?」と間違いなく聞く。
そんなやぼな質問を微笑んでスルーする私。
「ろうそく立てようよ」と我が子。
「クリスマスケーキにはろうそく刺さないのよ」と私。
しかし、最近の我が子の口癖は「やだ」だ。言うことをぜんぜん聞かない。
「ためしてみよう」と、夫はろうそくを持ってくるだろう。
そしてケーキにはブスブスとろうそくが突き立てられる。
そして火がつけられる。
「はっぴばーすでー」と我が子は歌い出し、火を吹き消すだろう。
私が切り分けようとナイフを取り出すと、「やる!」と我が子は言い出して聞かないだろう。
仕方なく握らせたナイフに手を添えて、きれいに切り分けようと誘導する私の力にあの子は全力で争うのだろう。
ケーキは切り刻まれ、夫はつまみぐいを始めるだろう。
間違いない。
私には見える……。無残に崩れたケーキの行く末が……。
だめだ。4歳児と44歳児のたった一瞬の感動のために2万円近くするケーキなどもったいない。覚えてるかどうかも分からないのに。
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今年じゃない。高級ケーキは今じゃない。
私の自己満足からの大いなる虚しさで終わる。
やめやめ! 中止だ!
私が子供の頃、水野家のクリスマスケーキは、サーティーワンのアイスクリームケーキがお決まりだった。
父が餡かけスパゲティーを作り、母がケーキを買ってくる。
四日市に住んでいたので、お隣の名古屋の食文化に影響を受けていた。だからいつも味噌汁は赤だしだったし、餡かけスパゲティーも食卓の常連だった。
ひき肉と玉ねぎが入ったコンソメ味の餡がたっぷりかかったスパゲティー。
名古屋のレストランで食べたものを、父が独自に真似して作ったレシピだった。
あの味。クリスマスの風景とともにはっきりと記憶に刻まれている。
最後にお皿に残った餡を、ずずっと啜って食べたものだ。旨味たっぷりの餡の余韻がたまらなかった。
こうして思い出したら、食べたくなってきた。
今年のクリスマスに作ってみようか。
餡かけパスタ文化にまだ出会っていない、うちの家族には受け入れられるだろうか。
で、問題のケーキである。
母は毎年、アイスクリームケーキを買ってきて、冷凍庫に入れずに冷蔵庫に保管してしまう。
みんなでスパゲティーを食べ終えて、「さあ、ケーキだ」という段で、母が毎年、ケーキの箱を冷蔵庫から取り出し、「あら! 溶けちゃってる! 間違えて冷蔵庫に入れちゃった!」と言う。
これが見事に毎年だった。
しかしドロドロの液状になっているわけではなく、かろうじてケーキの外観を保っているものの、もうぷるぷるになってしまっているという状態。
それが我が家のクリスマスケーキだった。
特にがっかりした記憶はない。
溶けていようがなんだろうが、アイスケーキを食べていることに変わりはないし、アイスケーキというのはやっぱり特別で、嬉しかったんだと思う。
だけど溶かしてしまった母は、毎年がっかりしていたのだろうか。今になって母の気持ちを思うと少しせつない。
イラスト:唐橋充
この原稿を書いている今日、我が家ではクリスマスツリー開きをした。夫が子供に負けじとはしゃいでいた。
今日のために買ってあった、まあるいオーナメントを、
「かわいいでしょーーーー」
と見せにきた。
「クリスマス大好きなのーー」
とはしゃぐ、髭、ロン毛、メガネの夫の中には乙女が棲んでいる。
飾り方にこだわりすぎてちょっと子供がひいていた。
こんな平和な日常の1コマを、大きくなった我が子は思い出したりするのだろうか。
結局クリスマスケーキは、家族で立ち寄った近所のコンビニのポスターにプリントされていたケーキのライナップの中から、仮面ライダーリバイスのキャラデコケーキに決まった。
思う存分楽しむがよい。ろうそく刺すがよい。好きに切り分けるがよい。
私も楽しみだ。
■水野美紀(みずのみき)俳優。ドラマ・映画・舞台で活躍中。<出演情報>Amazonプライムビデオ「ザ・マスクド・シンガー」が配信中。作・演出・出演した舞台『2つの「ヒ」キゲキ』のDVDの予約を10/31まで受付中(https://2hikigeki.official.ec)。レギュラー番組は、フジテレビ系バラエティ「突然ですが占ってもいいですか?」毎週水曜22:00~、読売テレビ「水野美紀の映画生活(シネマライフ)」毎週金曜22:54~<関西ローカル> http://www.ytv.co.jp/cinemalife/
【書籍『水野美紀の子育て奮闘記 余力ゼロで生きてます。』好評発売中】
dot.
2021/12/02 11:30