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「性被害は虚偽」として元草津町議を在宅起訴 本人の言葉で何が語られるのかを注視したい
「性被害は虚偽」として元草津町議を在宅起訴 本人の言葉で何が語られるのかを注視したい 2020年12月、会見する新井祥子・元草津町議 作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、元草津町議の在宅起訴ついて。 *   *  *  10月31日、群馬県草津町の元町議・新井祥子さんが、草津町長に対する名誉毀損と性被害の虚偽告訴の罪で在宅起訴された。裁判で真実が明らかになることを願っているが、SNS上では、起訴=有罪とばかりに、新井さんを責め立てる声が大きくなりつつある。  草津町で起きたことの経緯を、改めて記しておこう。  2019年11月、新井町議(当時)が、町長から性被害を受けたと電子書籍(飯塚玲児著『草津温泉 漆黒の闇5』)で告発した。町長は新井氏と著者を名誉毀損で刑事と民事で訴え、自身の潔白を主張した。また同年12月2日の町議会は、新井氏を「議員としての品位を著しく汚した」として除名処分している。一方、新井氏は除名処分を不服とし群馬県知事に申し立て、その結果、20年8月に除名処分は取り消されるのだが、今度は議長らが率先し、新井氏のリコールを問う住民投票を求める署名運動をはじめた。草津町は有権者約5000人、その3分の1以上が署名したため住民投票が行われ、新井氏は議席を失った。その後、新井氏は21年12月に町長を強制わいせつ容疑で刑事告訴したが、こちらは不起訴になった。来年1月には、町長がおこした名誉毀損の民事裁判で、新井氏自身が法廷に立つ。その矢先の在宅起訴だった。  私が新井氏と初めて連絡を取ったのは、リコール投票を間近に控えた20年11月だ。日本を代表する温泉町の「スキャンダル」は、テレビの情報番組でも取りあげられていたので知ってはいたが、遠巻きに眺めているにすぎなかった。インタビューに答える新井氏が、「私はおばさんだし」と自虐的に語ったり、性被害を「肉体関係」と表していたり、また、新井氏の告発のきっかけとなった電子書籍は、性的スキャンダルに重点を置いた内容だったこともあり、私自身が関わることではないと考えていた。 北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表  ところがリコール運動が激しさを増すにつれ、新井氏の置かれている現状をSNSで見聞きすることが増えてきた。発信者の多くは女性政治家たちだった。性被害の声をあげた女性議員が数の力でリコールに追いやられている現実を、「これは現代の魔女狩りだ」という危機感をもって、女性政治家たちが語っていた。そこで初めてネットで公開されている草津町議会を視聴し、そこで繰り広げられていたことに衝撃を受けたのだった。  国会は傍聴したことはあっても、自分の住む地域の議会も傍聴したことは、それまで一度もなかったが、そこは国会以上に男しかいない場所であった。職員を含めて男性ばかりの議場で、激しいヤジが飛び、議員らが新井氏を責め立てる議会には衝撃を受けた。事実については誰も判断できる立場ではないはずだが、一方的に新井氏を「うそつき」と決めつけ、議員らが率先してリコール運動をするのかと驚いた。  そこで知人を通して新井氏に連絡を取り、実際に草津町議会の傍聴をすることにしたのだった。私が傍聴したのは20年の12月1日、リコール直前の議会だった。その様子はこのコラムでも記したが、傍聴席には高齢男性たちが並び、新井氏にむかって「うそつき」「(あんな女とは)犬でもしない」など激しい言葉で罵っていた。それは議会というより、新井氏が裁かれる現場のようだった。  さらにその10日後の20年12月11日、新井氏が主催者となり、草津町でフラワーデモが開催されて私も参加した。15人ほどの小さな集まりだったが、司法での決着を待たずに新井氏の訴えをうそと断定し、議員自らがリコール運動を率先していることに問題を感じるジャーナリストや性被害当事者、支援者らが集まった。草津町でデモをしたこと自体が風評被害という声もあるが、デモはこの国の人が持つ権利である。また、その際に、「#セカンドレイプの町草津」というプラカードを持っていた人たちもいたが、これは「性被害があった」ことを事実として問題にしたのではなく、性被害を訴えた女性議員に対するリコール運動や議場での激しいヤジに対する抗議であった。  今、新井氏がどのような状況にあるのかは分からない。新井氏を信じ、裁判費用の寄付などもしてきた支援者への説明はすべきだとメールはしたが、今の時点で返信はない。今はただ裁判を通して、事実が明らかになることを望んでいる。  SNSでは、支援者やこの件についての記事を書いた者への謝罪を求めるような声もあがっているが、支援者たちに謝罪を求めるのは間違いだ。支援者は被害者を選ばない。少なくとも私は、フラワーデモを通して、被害者は選ばないと決めた。たとえば伊藤詩織さんのとき、当初、私は詩織さんの闘いに関わらなかった。残酷な言い方をすれば、「詩織さんがどういう人か知らなかった」からだ。詩織さんの闘いを支えなければと思ったのは、詩織さんが声をあげた17年5月から1年以上を経た18年の秋だ。韓国の#MeToo運動などを見て「韓国ってすごいな~」と感心する一方で、詩織さんの#MeTooを遠巻きに見ている自分に嫌気が差したのだ。「被害者と加害者を同じステージにあげて、どちらが正しいのか社会が判断する」という判断をする側に自分は立つべきではないと決めた。まずは被害者の声を聞く、というところに立つ。それが性被害を語りやすくし、性暴力を根絶し、誰も加害者にさせないための一歩だと、性被害者たちの絶望の淵に立つ声が教えてくれた。  私はそのようにして、新井さんの声を聞いてきた一人である。それは新井さんの声に寄り添おうとした多くの当事者、支援者の思いでもあるだろう。今は、裁判で事実が明らかになることを期待したい。そして新井さん自身の言葉で何が語られるのかを注視したい。
性被害を告訴した元草津町議の女性が会見 会場の関心と#MeTooのズレに衝撃を受けた 
性被害を告訴した元草津町議の女性が会見 会場の関心と#MeTooのズレに衝撃を受けた  写真はイメージです(Getty Images)  作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、性被害を受けたと訴える草津町の元町議の女性の会見を見て感じたことについて。 *    *  * 群馬県草津町の元町議、新井祥子さんが町長を強制わいせつ容疑で刑事告訴した。新井さんが性被害を受けたという日から既に7年近くが経過し、来年1月には時効を迎えるタイミングだ。   町長はこれまで一貫して事件を否定し、新井さんを名誉毀損で訴えている。新井さんは2019年、町議会から除名処分を受け、いったんは群馬県の判断で復職するが、町議らによるリコール運動の結果、2020年12月に住民投票で失職した。  新井さんは草津町議初めての、そして現在にいたるまで唯一の女性議員であった。  12月13日、新井さんは群馬県庁で記者会見を行った。私はライブ配信で視聴した。新井さんは刑事告訴に踏み切った思いを語り、事件当日の町長との会話を録音した音声を発表した。新井さんの弁護士は、「新井さんは苦しみ抜かれ、それでもやはり事実を明らかにしたいということから告訴を決意された」と今回の告訴について話した。  録音されていたのは、事件当日とされる日の町長と新井さんの会話だ。個人的なトラブルの相談について町長の言質を取るために録音していたという。褒められた行為ではないが、新井さんはポケットに録音機を忍ばせていた。  そこには親しげな会話が残されていた。会話からは、2人が前日に消防団の出初め式に参加していたことがわかり、そこで日にちが特定され、さらに午前10時を知らせるチャイムが鳴ったことから時間も特定された。  音声は性被害を証明するものではなく、事件があったと新井さんが主張する日時に町長と一緒にいたというだけの事実である。とはいえ、これは大きい。というのも、町長はこれまで「その日に2人では会っていない」「町長室のドアは開けっ放しにしていた」「新井議員を“祥子ちゃん”と呼んだことはない」などと議会で断言し、新井さんを虚言癖があると攻撃してきたからだ。ところが音声データには、ドアをノックし開閉する音、「祥子ちゃん」と呼びかける声も残っていた。少なくとも、町長にはこれまでの説明との矛盾を語る責任があるだろう。 北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表  ところが、であった。会場の記者たちの関心はそこにはなかった。それどころか、記者会見は次第に新井さんを責めるような空気になっていった。声色だけでも、質問する記者が威圧的だったり、ニヤニヤしている雰囲気が伝わってきた。実際その場にいた記者によれば、記者やカメラマンは20人ほどいたが、ほとんどが男性で(女性記者は2人だったという)、時に記者どうしが目配せするように質問をすることもあったという。  たとえば新井さんは以前、強制わいせつ罪と強制性交等罪を混同し使っていたことがあった。それを問われた新井さんは「私が受けた被害は、現在の刑法では強制わいせつ罪ですが、被害者からすればその二つを区別はできない」と説明した。  それに対し男性記者は「意味が分からない」と食い下がり、説明を受けても「分からない」を繰り返していた。まるで最初から一貫して同じ言葉を使わないことが大問題であるかのようだった。  現在の強制性交等罪は身体への男性器の挿入が問題になる。それに対し、指やアダルトグッズなどを使った行為も強制性交等罪として認められるべきであるという議論が重ねられてきた。被害者にとってみれば、男性器の挿入が問題ではなく、同意があったかどうかが問題だからだ。そのような基本的知識のない記者による、隙あらば矛盾を責めるという空気が記者会見場にできあがっているのが伝わってきた。  特に性被害が音声に残っていないことについては、嘲笑的で、時に攻撃的に聞こえた。  もともとやましい気持ちで録音していたことから、町長が近づいてきた時に「ばれた」と思い、新井さんは録音機の電源を切ったという。 「もし音声がとれていたとしても、私は消したと思います。振り返るのもつらいこと、聞くのは耐えられないからです」  と新井さんは話したが、「核心的な内容なのに、なぜないのか?」「町長は和やかに会話しているのに、突然豹変するようなことがあるのか?」など、音声がないことに故意をにおわせる質問が続いた。そもそも性暴力は、からかいや、和やかな空気のなか、被害者が被害と気がつけないほどに自然に「始まる」ことが多い暴力であることを知らないからできる質問だろう。  またある男性は怒った調子で、「町民の代表として町長と話しをしている議員が、大切な録音をなぜ途中で切ったのか」と質問していた。質問は彼の勘違いによるものであり、そもそもなぜ怒っているのかは意味不明だが、「叱りつける」ことに躊躇ない様子に衝撃を受けた。  これではたとえ録音があったとしても、それはそれでハニートラップを仕掛けたと疑われるだろうと思われた。何をしても性被害を訴える声は疑いと怒りの視線にさらされるという現場を、目の当たりにしているようだった。  町長は新井さんを虚偽告訴で訴えると記者に話したという。それでも新井さんに迷いはないようだった。これまでも町長は議会でも「なぜ刑事告訴しないのか? できないからだろう?」と言ってきた。ある意味、新井さんは町長の挑発にあえて乗ったともいえる。客観的には厳しい闘いになると思われる。7年近くも前の事件を捜査するのは厳しく、告訴が検察に受理される可能性は決して高くない。それでも諦められないものを新井さんは取りにいこうとしているように見える。それは事実を明らかにしたい、奪われた尊厳を回復したいという思いだ。  私は新井さんが傍聴席から侮辱の言葉を浴びせられ、「うそつき」と言われ続けるのを見てきた。町議会が女性議員1人を追い出すためにリコール運動を繰り広げるのを見てきた。それはまるで声をあげたことそのものが罪、という印象をあたえるのに十分なものだった。  性暴力は密室で行われる。客観的証拠もない。だから性暴力はどちらかがうそをついている事件……という一見、中立なその姿勢こそが、実は加害者側に寄り添う行為になる。  多くの被害者は声をあげることができなかった。声をあげれば「本当の被害者が声をあげられるはずがない」と言われ、声をあげなければ「被害などなかった」とされ、時間を経てから声をあげれば「今さら何が目的か?」と追いつめられるのが被害者の現実だった。そもそも、声をあげる側の社会的立場は圧倒的に弱いことが多い。そういうことが、ここ数年の世界的な潮流#MeTooで、明からになった。だからこそ、まずは被害者の声を裁くのではなく聞く、「被害者中心主義」の姿勢が今、国際的には人権の見地から求められている。記者ならば、なおさらそのことを理解してほしいと思う。  来年は刑法改正の重要な年になる。報道側のジェンダーギャップや、その意識も問われると改めて感じている。 ■北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表
地方議員コンパニオン宴会で露呈した日本のジェンダーギャップの要因【フェミニスト10大ニュース】
地方議員コンパニオン宴会で露呈した日本のジェンダーギャップの要因【フェミニスト10大ニュース】 作家の北原みのりさん  作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。2020年最後の配信となる今回は、フェミニストの視点で今年の10大ニュースを選びました。 *    *  *  毎年この時期になると世界経済フォーラムによるジェンダーギャップ指数が公表され、日本の順位がまた下がったよ! ご近所にはアラブ首長国連邦とかクウェートとか石油が出る国しかないじゃん!と騒然とするのがフェミニストの年末気分なのですが、今年はコロナ禍だからでしょうか、クリスマス越えてもジェンダーギャップがまとまっていないようです。  世界的なパンデミックに見舞われた2020年、期せずして“ジェンダー”は大きなテーマになったようにみえます。ドイツ、ニュージーランド、台湾をはじめ女性リーダーたちの冷静で適切な指導力が功を奏する一方で、パンデミックを戦争にたとえ、マスクを着けずに戦いに挑んだマッチョなリーダーの国々では、ことごとく深刻化してしまう哀しさ。また、エッセンシャルワーカーの多くが女性であることなど、このような非常事態ではジェンダー不平等がより露骨に女性の人生を押しつぶす現実も可視化されました。フェミ的にもありすぎるほどのニュースがありましたね……。ということで、2020年最後のコラムでは、私的フェミニスト10大ニュースを勝手に選んでみました。 1 性犯罪事件逆転有罪  フラワーデモのきっかけとなった2019年3月に続いた4件の性暴力無罪判決のうち、検察が控訴しなかった1件を除き全てが逆転有罪になりました。  テキーラを何杯も飲ませ意識失わせて行う性交を「同意と勘違いした」と認定するような判決や、実父による性虐待を娘が同意していたともとれるような判決に「なぜ?!」と声をあげ、被害者に寄り添う#MeToo#WithYouの声が、性暴力に対する世論を変えた結果でしょう。勝利の少ないフェミ界において、私たちの声が現実を変えるのだ、という実感は希望です。 2 杉田水脈議員発言「女性はいくらでも嘘をつける」  杉田水脈衆議院議員によるセカンドレイプ発言に14万近くの署名が集まりました。「セクハラ罪という罪はない」(麻生太郎議員)など、安倍政権時代からのさんざんな政治家によるセカンドレイプ発言に、しっかりとどめを刺したい思いでいましたが自民党は署名受け取りを拒否。当初の宛先にしていた野田聖子幹事長代行は「受け取りを辞退します」と連絡してきました。この署名活動は先日、社会的キャンペーンのオンライン署名活動を行うChange.orgで今年の性差別部門で賞が与えられました(辞退しませんでした)。 3 選択的夫婦別姓まであともう少し!!  結婚した男女の姓を強制的に同じにするのは、世界中で今や日本だけ。2000年代前半から、強制同姓は差別ですよ、改めましょうよ、と国連にずっと言われ続けているのだけれど、日本政府は聞く耳をずっと持たずにきました。が、その雰囲気が今年大きく変わりました。  2020年、男女共同参画社会基本法に基づいて5年ごとに見直される、男女共同参画基本計画が策定されました。SNSなどでパブコメを求めるフェミな声も多く、これまでになく選択的夫婦別姓を求める声が盛り上がったのです。世論調査では7割が選択的夫婦別姓を支持とのこと。自民党の保守議員たちが「家族の絆が!」などと言っていますが、私は今回初めて、その手の声が“消えゆく者の断末魔の呻きに聞こえたのでした。だって、世論7割よ? 選択的夫婦別姓を全否定する声がカルトに聞こえるほど、現実の空気が変わったのかもしれない。自分の姓のまま結婚できる! そんな“ささいなこと”に、あとどれだけ時間がかかるのか分かりませんが、それでも大きな一歩を踏み出した2020年でした。 4 検察庁法改正案潰せた!  #検察庁法改正案に抗議します  この一つのタグが1000万ツイートを超える大規模な世論になり、実際に改正を阻止できました。2020年の一番のニュースかもしれません。提案したのはフェミニストの笛美さん。笛美という名前を見たときから、勝手に心の親友でいさせてもらっています。フェミを日本語で美しい笛、と記すセンス、ただものじゃないです。そう、フェミは美しい笛を鳴らす者。その声が現実を変えるのです。 5 草津町の女性議員リコール  コロナ禍で、地方議会でどのように女性が扱われてるのかが浮き彫りになるニュースが続きました。群馬県草津町で性被害を訴えた女性議員のリコールに続き、最近は愛知県西尾市や奈良県山添村の議員らがコンパニオンを呼んで宴会を開いていたニュースが話題に。  地方議員を経験した友人によれば、宴会や視察の時にコンパニオンを呼びお酌させたり、膝に乗せたりなどの接待はごく普通にあるとのこと。もしかしたら日本の地方議会、明治時代から変わってない? 女性を一定数入れるクオータ制、本気で導入すべき時なのかもしれません。  世界経済フォーラムによるジェンダーギャップ指数は政治、健康、経済、教育の四つの視点で測られます。健康の分野では、2019年の日本は40位(実質1位の国が39カ国あるので、2位のようなもの)と、かなり上位。それなのになぜ総合で121位なのかといえば、ひとえに政治と経済のせい、につきます。政治のジェンダーギャップは152カ国中144位。もうね、石油国しか周りにいないです。ちなみに韓国の政治分野ははるか上の79位。政治に女性を入れれば、ジェンダーギャップ、もう少し上にいけるんです。  以下は駆け足で。 6 アフターピルの処方箋なし購入を求める署名に10万人以上が賛同しました。海外でも韓国の堕胎罪廃止運動、アルゼンチンの中絶合法化運動など、今年は世界各国で女性の身体をめぐる運動が活発化しました。 7 女性の自死者が急増しています。10月は前年比の2倍近くにも。自死者の背後にはその何倍もの未遂という現実があります。コロナ禍でよりいっそう過酷に女性の人生が壊されています。 8 法務省の性犯罪に関する刑事法検討会に、性被害当事者団体「一般社団法人Spring」の代表理事、山本潤さんが入りました。当事者の声が聴かれる検討会は初めてのことです。被害者を置き去りにしない刑法改正への希望の一歩です。 9 眞子内親王のお気持ち発表が大きな話題に。いわば、皇室の女性も「好きな人と結婚するのだ」と声をあげたということ。これはかなりの事件かも。来年も皇室の女性たちから目が離せません。  最後の10番目は、石原慎太郎氏の最新作『男の業の物語』(幻冬舎)にしたいと思います。いわゆる、男は女とは違うんだ、男は無情なのだ、ダンディズムなのだ、なぜなら男だからなのだ……ということが記されているオレ様の本です。  SNSでこの本に関する書き込みなど見ていたのですが、ほとんどが苦笑、失笑、嘲笑、憐憫でした。「男」という言葉を石原氏自身が貶めてしまっているかもしれないのではないかと心配になるほど、さんざんな笑われ方です。そのことに2020年年末、私は希望を感じます。  もしこの本が10年前に出ていたら、「あ、バックラッシュきた」と構えたかもしれません。「ババア発言」しかり、女性をさんざん貶めてきた元都知事には、やはり身構えてしまう耐性ができてしまっています。でも2020年、石原氏がただ老衰したからという以前に、社会の空気が「もう、それはないよ」という方向にシフトしつつあるのを実感します。  もちろん決して油断はできないジェンダーギャップ121位の国。でも、全部が全部悪いわけじゃない。私たちは私たちの声によってひどい現実を変えることができるのだと信じたい。そんなことを2020年、私は手にすることができた気がするのです。声。これがフェミ的には2020年の一字。  というわけで!2021年はもっともっと声が届く希望の年にしていきたいですね。みなさま、よいフェミ年を。 ■北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
殺気だつ草津町傍聴席「犬だってしねぇよ」 セクハラを背中で浴び続けた気分になった
殺気だつ草津町傍聴席「犬だってしねぇよ」 セクハラを背中で浴び続けた気分になった 新井議員のリコールを求めるポスターがあちこちに貼られている。有効投票の過半数で新井議員は失職する。 「せっかくだから町長室を見ていけばいいじゃないか」と傍聴席の町長支援者に声をかけられ、散会後入れてもらった。 作家の北原みのりさん  作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、群馬県草津町で賛否が問われている女性議員に対する解職請求(リコール)について。議会を傍聴してきた感想をまとめた。 *  *  *  町長からの性被害を訴えた草津町議員に対するリコールの賛否を問う住民投票が12月6日に迫っている。  衆院議員の杉田水脈氏の辞職を求める声に14万筆近く集まっても、国会議員を辞職させることはできない。一方、地方議員となると、辞職勧告や懲罰のハードルが下がるのだろうか。  乳児を議場に入れた熊本市の緒方夕佳議員が、のどあめをなめたと出席停止処分を受けたのは2018年。宮古島への自衛隊誘致に反対し「(自衛隊がくると)婦女暴行事件が起こる」とSNSに記した石嶺香織市議(当時)が辞職勧告を受けたのは2017年(SNSについては後に謝罪のうえ撤回)。徳島県藍住町では、水道光熱費が少なすぎて居住実態がないと断定され西岡恵子さんが2度(2010年、2014年)同じ理由で議員を失職させられている(議決取り消しを求めて提訴し勝訴確定)。最近ではSNSに議会での同僚議員の様子を(質問をしなかったなど)を記した埼玉県日高市の田中まどか議員も辞職勧告を受けた。  女性ばかり記したが、もちろん男性議員も辞職勧告などを受けている。とはいえそもそも絶対数が少ない女性議員への懲罰が目立つのと、港区議員の公然わいせつや、女性職員の机を物色して刑事事件になった富山市議などの例が直近ではあるが、のどあめをなめたとか、光熱費が少なすぎるというのとは次元が違いすぎるじゃないか。 ■ 町議会の傍聴をしてきた  そういうなか、草津町で今起きていることは、もしかしたら地方議会の「今」の問題なのかもしれない。リコールの賛否を問う住民投票まで時間がないなか、12月1日、草津町議会を傍聴するため草津に向かった。  この日、議会で多くの時間を費やしたのは、町長からの性被害を告発した新井祥子議員の処分についてだった。町長は新井議員を名誉毀損で刑事・民事ともに訴え、5000万円を要求している。議会で新井議員はうそつきと断定され、議員等が率先してリコール運動を導いた。    12人の傍聴席は全て埋まっていた。私を含めて5人の女性が傍聴していたが(偶然だが、この問題に関心を持つ女性が東京から私を含めて4人いた)、傍聴席の約半数が女性であることは珍しいという。そのためか町長は傍聴席を意識するように「今日は新井議員の応援団が来ているから」と2度ほど言い、自らの潔白を強く語りかけるように長い発言を繰り返した。  休憩を挟んで議場に戻ろうとしていた男性議員たちが「傍聴席のヤツラ! 今日はやりにくい」と大声で言っているのが聞こえた。「ヤツラ」と言うんだな……と驚いたが、普段から傍聴している人によると、「今日は議場がいつもより穏やか」とのことだった。いつもは新井議員への嘲笑や暴言、叱責が激しいといい、この日は傍聴席の女性が圧になっていたのは確かのようだ。  一方、傍聴席は殺気だっていた。70代くらいの男性たちが前列に座る私たちの背後から、「こっちにだって選ぶ権利あるんだよ」「誰があんな女と」「犬だってしねぇよ」と声を浴びせたり、「(性被害が)本当なら(時間的に)町長はニワトリだ」と盛り上がったりもしていた。ニワトリの意味は、すぐ射精するとのことらしい。コケッコッコーと言っては笑っていた。セクハラを背中からずっと浴び続けた思いになる。 ■ 女性が被害者、男性が加害者という“風潮”  町長とは散会後、話す機会を頂いた。率直にリコールはやりすぎではないかと問うと、町長は「それは主観の問題」と答え、逃げられたように感じたが、いわゆる「ガハハ」な下品系ではなく、初対面の私に敬語を崩さないビジネスマン的雰囲気の人である。  町長室に入って座って話しましょうと言われたが、町長室前の立ち話でお願いし、20分ほど話した。その後、礼を言い立ち去る時、「町長室に入ったら犯されちゃうって警戒されちゃったね」と、支援者たちがふざけているのが聞こえた。思わずカッとくるのを抑えながら、階段を駆け下りた。    町長は「最近は女は被害者、男は加害者という風潮がある」と議会で話していた。私との会話の中でもそう語っていた。その風潮を新井議員が利用しているという主張だ。「私に犯されたなら証拠だしなさい」といら立つように新井議員に迫ってもいた。そういう町長に同調するように傍聴席でも「女が被害を受けたといえばそれでいいのか」と吐き捨てる男性の姿もあった。  セクハラがセクハラと理解されない日常で、声をあげた女性を全力でたたきつぶそうとするその拳の強さを思い知る。 「女は被害者、男は加害者という風潮」は、実は男性社会が作ってきたレイプ神話だ。逆説的だが、そういう“風潮”があるからこそ、女はいくらでもうそをつき男をおとしめられるのだという“神話”が再生産されてきた。 「女性はいくらでもうそをつける」という杉田議員発言の背後には、こういう被害者意識を深める男性たちのいら立ちがあるのだろう。  加えて今の「風潮」を言うなら、被害者の訴える声をまずは疑わずに静かに聴く、ことである。それが今の国際基準の、“被害者中心主義”というものだ。もちろん、男女問わずに。犯された証拠を出せ、出せないなら犯されていないのだという論理で追い詰めることは、そもそも性暴力に無知であることを露呈するだけでしかない。 ■ 女性議員1人以下の地方議会は45%  女性議員がゼロ、またはたった1人の議会は日本全体で45%にもなる。宮古島市の石嶺さんは26人中一人の女性議員(当時)で、藍住町の西岡さんも16人中1人(当時)、日高市の田中議員は16人中2人のうち1人。新井議員もたった1人の女性議員だ。女性がいないことが、「あたりまえ」の極端な男性社会が日本の地方に根深くあり、深く根を張り続けてきた。その弊害が、今、少しずつ可視化されてきているのかもしれない。  1日の草津町議会が散会したのは午後3時を過ぎていた。温泉は大好きなのに、入る気分になれずそのまま東京に戻った。  帰路ずっと「傍聴席のヤツラ」という男性の声が追いかけてきた。あからさまな物言いに驚きながらも、でも、「ヤツラ」がいることが、この国の民主主義には大切なのかもしれないとも思う。中からも、外からも、こもった空気を入れかえ優しい風を感じるために、この国の窓をあけたい。 ■北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
まるで現代の魔女狩り? 性被害を訴えた草津町議会女性議員へのリコール
まるで現代の魔女狩り? 性被害を訴えた草津町議会女性議員へのリコール 草津町のいたるところに新井議員のリコールを求めるポスターが貼られている 作家の北原みのりさん 草津町議会(c)朝日新聞社  作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、群馬県草津町で賛否が問われている女性議員に対する解職請求(リコール)について取り上げる。 *  *  *  12月6日、群馬県草津町で、一人の女性議員に対するリコールの賛否が、住民投票で決定される。  発端は、この女性議員が町長から性被害を受けたと昨年の11月にメディアに告発したことだ。町長は性被害の事実はないとし、女性を刑事と民事で訴え、その後、草津町議会は彼女を「議会の品位を傷つける発言をした」と除名処分にした。その後、群馬県がこの処分を取り消し、女性議員は議会に戻れたのだが、改めて議会で議員辞職勧告を受け、さらに町議等が先導して今回のリコールにつながった。   現在の草津町議会は12人。女性は町長を訴えた新井祥子さんただ一人で、彼女は草津町議史上初めての女性議員でもある。小さな地方議会で、「性被害の事実はない」という町長の声が一方的に通ってしまう現実、さらに現職の町議等が町民にリコール投票を求める力には、やはり違和感しかない。日本有数の温泉地でありながら、女性がたった一人の議会。そこはどのような空気で、何が語られているのだろう。気になり、草津町議会の動画を何げなく見た。これがかなりの衝撃的な内容だった。  まず、男性が圧倒的多数の歪(いびつ)さは映像で見るとやはりインパクトがある。議員12人のうち11人が男性で、ペーパーを配る係に女性が一人いるが、15人ほどいる役所の担当者等も男性ばかり。議場が新しく見えるせいか、まるで女性が生まれない未来社会に来たかのような強烈な世界観だ。視聴したのは新井議員に辞職勧告が出された今年3月2日の議会だが、そこで映されていたのは、男性たちが徒党を組むように、新井議員をおとしめる様子だった。 「(セクハラ告発は)草津町議会にとっても、町民にとっても、経済にとっても、対外的にも非常に迷惑!」と大声をあげる議員がいれば、「レイプされたというのなら、なぜ即刑事事件にしなかったのか?」と、新井議員の告発の真偽を疑う発言も繰り返された。こういう発言に新井議員は「裁判中だから発言を控える」と言い、時には「性被害者はすぐには訴えられないものだ」などと感情を交えず静かに反論していた。  また過去に新井議員が草津町の権力者をパロディー化(欲深い豚の顔に似せたりなど)したマンガを自身の活動誌に掲載していたことに触れ、「あなたは人を豚にしたりロバにしたりしているんですよ? これほどのパワハラはないんですよ!」と声を震わせる議員もいた。それはパワハラとは言わない……と思ったが、理屈よりも感情がものをいう世界のようで、「草津町議会にはセクハラもパワハラもない」と、何の根拠もなくこの議員はただ大声で言い切った。    衝撃だったのは町長だ。彼は性被害があったと新井議員が訴えた町長室の写真を大きなパネルにして、「どこで私にいかがわしい行為をさせられたのか答えてください」と目の前で迫った。「裁判で明らかにしていきます」と新井議員が答えても「答えなさいよ!」と大声を何度も出した。さらに新井議員の告発によって、「本当に被害にあった女性が声をあげられなくなる、大変な罪作りだ」と責め、こう言った。 「私に犯された女性ならば、とても(加害者と同じ空間の)ここにはいられない」「それがあなたは平然として、平気で私の目を見る」「神経が分からない」。このセリフは何度も繰り返された。  町長にたとえ加害の事実がなかったとしても、この議会そのものが十分に性暴力でミソジニーだった。「この議会の様子はYouTubeで世界に配信される!」と町長自身が動画内で言っていたので、自身の正しさを証明する機会として、新井議員をおとしめる発言を繰り返したのだろうが、「世界的」には完全にアウトなのは草津町議会そのものではないか。男性ばかりの歪な議会で、性被害を訴えた女性を「嘘つき」とののしる姿を世界にさらしてしまった。  日本には女性議員がゼロの市区町村が、311あるという(2020年内閣府調査)。全1741市区町村中なので、この国の約18%の“あなたが暮らす街”は、男性だけで大切なことが決められているということになる。日本全国でならすと、市区の女性議員率はたったの16.6%で、町村にいたっては11.1%。草津町のように女性がたった一人しかいない議会は地方にいけばいくほど珍しくない。  国政に出るより町議や区議のほうがハードルが低そうだし、女性も多そう……ということは全くなく、地域に根づけば根づくほど、そして田舎であればあるほど「女性は家に」の圧力が高く、政治参加が難しい現実があるのだ。  日本有数の温泉街で繰り広げられるミソジニー議会。温泉街は女性の働き手抜きには語れない。一昔前は、住み込みでの旅館の仕事は、身寄りのない女性の自立の道でもあった。夜のサービス業も過去は非常に盛んで、今もコンパニオンの需要は少なくない。女性議員があげた性被害の声と、それを数の力で潰す光景に、女性たちは何を思うのだろう。  性被害告発に対する町議等の過剰な反応は、町民たちにどのように届くのだろうか。12月6日の結果を見守りたい。 ■北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表

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