都内の女子大生Iさん(20)は昨年夏、国際協力サークルの活動でカンボジアに行った。出発直前に失恋したIさんは、想いを振り払うように活動に燃えた。

 滞在先はプノンペン郊外で電気なし、5時起床、21時就寝。菓子にはアリ、パサパサのご飯には大量のハエがたかる。入浴は雨水をためた“黄色い水”。カルチャーショック連続のなか、すっかり失恋は忘れた。

 そんな環境を共にした仲間に、九州男児のB君がいた。違う大学の2年生で、性格はおおらか、よく気も回る。がっしりした肉体と白い歯は、カンボジアの青空の下で輝いて見えた。休憩時間にハンモックに揺られ、夜には星空を眺めながら未来を語った。

「ここにおいでよ」

 うながされて地面に寝転ぶと、待ち構えていたのは彼のたくましい腕。

「元カレなんか、俺が忘れさせてやるよ」

 昼間に子供たちと遊ぶ優しい顔とは違う、強引さにも惹かれた。

「これが噂に聞くカンボジアマジックかしら」と、Iさんは思った。

 ワイルドな環境に置かれ、カンボジアで結ばれる学生が多いとは聞いていた。2人はジャージー姿のままで恋に落ちた。

 2週間の滞在はあっという間に過ぎ、再会を誓って別れた2人。やがて東京・渋谷で再会した。初めての東京デートで、Iさん、白のカーディガンに紺色のプリーツスカートという清楚な格好でまとめた。

「久しぶりだね」

 渋谷の待ち合わせ場所に現れた彼は、相変わらずさわやか。ただし、オシャレなバーで、彼の着るジャージーの上下はやたらに目立つ。カンボジアマジック、一瞬にして消えた。

週刊朝日  2014年5月30日号