翻訳家・柴田元幸の考えがダイレクトに伝わる一冊。これまでの授業や講演などから100の言葉を選び、「翻訳手法」「翻訳の教え方」「若い人たちへのメッセージ」などに分けて構成した。

 あるページでは「(受験勉強のような)重箱の隅をつつく精神の積み重ねが翻訳では大事なんですよね」という言葉。それに柴田自身が「翻訳は受験英語をきちんとやったことが報われる仕事です。もしかしたら唯一そう言える仕事かも」とユーモラスなコメントをつける。また直球はストレートではなくファーストボールである、といった誤用を取り上げ、日本人を見下すのは狭量だとし、「僕の知っている英語圏の人々はそんなセコいことは言わない。彼らはただ、面白がるだけだ」という言葉が掲載される。言葉と向き合うことの楽しさがあふれた本。(生田はじめ)

週刊朝日  2020年3月20日号