今年も新語・流行語大賞の季節が来た。もっとも世間には日常語以上、流行語未満の日本語があふれており、そっちのほうがむしろおもしろかったりする。『知っておくと役立つ街の変な日本語』の著者・飯間浩明さんは『三省堂国語辞典』(『三国』)の編纂者。本書は言葉のハンターによるいわば新日本語候補のカタログだ。

 たとえば「立駐」とは何か。立体駐車場のことですよね? はい、ご明察。スーパーにも「立駐430台」みたいな案内板が出ているしね。だが『三国』を含め、これを載せている辞書は今のところないそうで<知らぬは国語辞典ばかり、というわけです>。交通関係は他にもいろいろあり、立体駐車場ができたために登場した「平面駐車場」。駐車料金を1泊2泊で数える習慣から生まれたらしき「泊リ無料」。「全車禁煙」の「全車」は「全部の車両」のことだけど、「全社」「全校」はあるのに辞書にはなくて<今まで気づかなかった迂濶さを悔やむと同時に、「こんな所に獲物がいた!」と、不思議な興奮を覚えます>。

 なるほどねえ、こういう一見地味な言葉にこそ、次代の日本語の芽が見え隠れするわけだね。

 日本語は略語の宝庫。「就活」「婚活」はもう定着したが、運転免許の取得は「免活」、会社の合同説明会は「合説」。ネイルサロンの「ラメグラ」は「ラメ+グラデーション」で「フルグラ」はフルーツグラノーラ。「つるすべ」は未掲載だが「ふわとろ」はすでに『三国』に載っているそうだ。

<おかげさまで年間100万台売れてます>は車ではなく菓子店のアップルパイの話。激安店の<鬼回るハンドスピナーこちらです>は回転する玩具の案内表示だ。

 日本語を外国語として学ぶ人が激増した今日、辞書の役割は以前にもまして高まっているように思う。<世界中のどんな言語も、教科書的なことばだけでできてはいません><「変なことば」は、それまでの硬直したことばに新しい展開をもたらします>。そうなのよ。「正しい日本語」に固執する人たちに読ませたい!

週刊朝日  2019年12月13日号