日本文学研究の第一人者で、今年96歳で亡くなった著者のオペラ解説書。自身の人生を振り返りながら、思い出とともにオペラの魅力を綴った。

 著者は「カルメン」を見て衝撃を受け、母親にねだって買ってもらった「フィガロの結婚」のレコード3巻に夢中になった。16歳からはニューヨーク・メトロポリタン歌劇場の定期会員となって足繁く通った。その間の膨大なデータや記憶を整理してオペラベスト10を選出し、思い出の歌手たちを紹介する。『源氏物語』の光源氏とモーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」では、同じ色男なのにどこが違うのかを比べるなど独自の考察も興味深い。

 オペラの魅力は「歌声にある」と述べ、「オペラは一生のもの」と説く。本書はオペラ初心者にとって素晴らしい手引書となるだろう。(金田千里)

週刊朝日  2019年7月5日号