「自分以外は、全員が敵」という環境に身をおく小中学生から、くも膜下出血からの復帰戦に挑む元二冠まで、将棋をめぐる全7話の連作短編集。

 嫉妬と羨望と期待を浴びて初の女性プロ棋士を目指すわが子を見つめる母、将棋会館の「お掃除おばさん」など、将棋に詳しいわけではない周辺の視点からも描かれるのが面白い。第一話では、「歩」を思わせる子供が、終盤に「と金」となって現れるなど、四隅に仕掛けられた演出もある。

 第六話「敗着さん」では、主人公はあと一歩でプロ棋士になれず、将棋担当の新聞記者となる。聞きなれないアダ名の由来とともに、客観的であろうとしながら劣勢の側に肩入れしてしまう記者の目線がいい。将棋小説ではあるが、「ルールは知らないが藤井聡太君なら知っている」という読者でも楽しめる。(朝山 実)

週刊朝日  2019年4月26日号