伊藤亜紗の『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社新書)はすごく刺激的な本だ。触覚や聴覚、嗅覚など、視覚以外の情報を巧みに使うことで世界(つまり、ものごと)を把握する人びと。それはすばらしく創造的で、目が見える人よりも見えることがたくさんある。

『みえるとかみえないとか』は、伊藤のこの本にインスパイアされたヨシタケシンスケが、伊藤に「そうだん」しながらつくった絵本である。

 宇宙飛行士の「ぼく」はいろんな星を調査している。あるとき降り立ったのは前に二つ後ろに一つの目を持つ人が住む星。彼らは前だけじゃなく後ろも同時に見られる。

 彼らは目が二つしかない「ぼく」を見て、「かわいそう」と同情する。そればかりか、「せなかのはなしはしないであげようね」と申し合わせる。後ろに目のない「ぼく」には、自分の背中が見えないからだ。「みえかた」が違うだけで、不便も不幸も感じていないのに、彼らに気をつかわれて、「ぼく」は変な気持ちになる……というのがこの絵本の導入部だ。

 身体が違えば、ものの見かたや世界のとらえかたも変わる。それは「違い」であって「欠損」ではないし、違うことそれ自体を気の毒がるべきではない。

 自分とは違う他者と出会ったら、どうすればいいのか。

「おなじところをさがしながら、ちがうところをおたがいにおもしろがればいいんだね」と「ぼく」は気づく。

 身体のことだけでなく、国籍、言語、宗教、習慣、階層、性別、政治的立場など、あらゆることにあてはまりそう。大人必読の絵本である。

週刊朝日  2018年10月19日号