書評『黄色いマンション 黒い猫』小泉今日子著 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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《今週の名言奇言 (週刊朝日)》

黄色いマンション 黒い猫 小泉今日子著

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斎藤美奈子書評#今週の名言奇言

黄色いマンション 黒い猫

小泉今日子著

978-4884184483
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若い時には四十代ってもっとくたびれているもんだと思っていた。

 渋谷の書店では透明のビニールでパックされていた。さすがアイドル。写真集でもないのに立ち読みできないようになってる!
『黄色いマンション 黒い猫』はキョンキョンこと小泉今日子の最新のエッセイ集だ。
 少女の頃から原宿に通い、一時は原宿近くに住んでいたこともあるキョンキョン。〈私のマンションは、明治通りを渋谷から新宿に向かって、左手のラフォーレ原宿を過ぎて、パレフランスも過ぎて、東郷神社も過ぎて、もう少し行くと右手にポツンとあるピテカントロプス・エレクトスっていうクラブの脇を入った突き当たりにある黄色い建物。黄色いマンションなんてちょっと珍しいでしょ〉
 えっ、そんなこと明かして大丈夫? 大丈夫、大丈夫。だってそれは20年以上前の話だから。
〈アイドルの住宅事情も大変よ。更新ってしたことないもんね。ファンの人たちにバレて、騒がれて、住民に文句言われて、次のマンションを探す〉。これがタイトルの由来。同じエッセイに出てくる「黒い猫」のことは可哀想すぎて、とてもここでは書けません。
〈私の青春時代の恋はいつも秘密だった。こっそりとひっそりと温めるしかなかった〉とか、〈離婚して再びの一人暮らしが始まったんですよ。裸一貫で出直したい気分だったんで〉とか、たまーにドキッとするフレーズを挟みながらも、いわゆるタレント本とはちがい、過去と現在が気持ちよく混在した短編集のよう。文章はもちろんうまいけど、それよりもこの絶妙な距離感ね。彼女が「ユミさん」と呼ぶ母も、母との離婚後に亡くなった父も、ビルから空に飛んだ2年後輩のアイドルも、なんだか小説の登場人物に思える。
 米軍基地のある神奈川県の厚木の町に3姉妹の末っ子として生まれ、16歳でデビューして三十数年。〈若い時には四十代ってもっとくたびれているもんだと思っていた。なってみると意外や意外、身も心も人生の中で一番充実しているような気がする〉と書くキョンキョンは今年で50歳。私たちも歳をとるはずです。

週刊朝日 2016年6月24日号


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