書評『娘になった妻、のぶ代へ』砂川啓介著 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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《ベストセラー解読 (週刊朝日)》

娘になった妻、のぶ代へ 砂川啓介著

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永江朗書評#ベストセラー解読

妻の認知症を受け容れていく

 誰もがガンになる可能性があるように、誰もが認知症になる可能性がある。不摂生だから認知症になるのではないし、確実な予防策もない。しかし、だからといって、人はなかなか受け容れられない。なぜ妻が、夫が、自分が、と嘆き、苦しみ、悩む。砂川啓介の『娘になった妻、のぶ代へ』は、妻が認知症になったことを受け容れていく夫のエッセイである。
 認知症は突然はじまるというよりも、徐々にこっそりとやってくる。だから毎日接している身近な人ほど気づきにくい。大山のぶ代の場合は、その前に直腸ガンと脳梗塞があった。因果関係はわからないが、相次ぐ体調の変化に隠れるようにして、認知症が忍び寄っていた。
 夫の砂川啓介は、戸惑い、困惑する。しっかりした姉さん女房で、むしろ砂川のほうが甘えていたからなおさらだ。しかも大山は「ドラえもん」の声優としても知られる有名人である。当初は妻の病気を隠そうともする。
 介護の現実は壮絶だ。認知症はたんに記憶をなくしていくだけではない。清潔好きだった妻が、身の回りへの関心を失い、排泄や感情のコントロールもうまくできなくなる。長年の連れ合いが別人になってしまったようで、その苦しみは大きい。
 しかも、砂川は1937年生まれの78歳。老老介護である。肉体的にもきびしい。ときに打ちのめされそうになりながらも、妻を支え、一緒に生きている。マネージャーらの協力を得つつ、自宅で妻の介護を続け、芸能活動をしながら、炊事をはじめ家事もおこなう。
 転機となるのは、妻の病状を公表したことだった。親友の毒蝮三太夫のすすめにしたがい、ラジオで話した。反響は大きく、砂川自身も気持ちが楽になったという。巻末の介護日記が胸を打つ。認知症はきびしいものだけど、つらいこと、悲しいことだけではない。
 それにしても、認知症とその介護をサポートする行政のしくみは、まだまだ不十分だ。

週刊朝日 2015年12月4日号


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