書評『【至急】塩を止められて困っています【信玄】』スエヒロ著 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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《今週の名言奇言 (週刊朝日)》

【至急】塩を止められて困っています【信玄】 スエヒロ著

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斎藤美奈子書評#今週の名言奇言

甲斐に住んでいる者です。

「くだらねえ!」が褒め言葉になる本ってのがあって『【至急】塩を止められて困っています【信玄】』はさしずめその見本である。
 登場するのは〈戦国時代に東急ハンズがあったら〉という想定のフロアガイド、戦国時代に発行されていたかもしれない「週刊火縄銃ダイジェスト」の表紙、〈1549年/8月15日12:00~布教開始〉と記された〈フランシスコ・ザビエル来日決定!〉のポスター、「三本の矢」を折るための取扱説明書……。
 書名になった武田信玄の窮状の訴えはYahoo!知恵袋ならぬ〈SENGOKU!知恵袋〉への投稿からはじまる。質問者は〈信玄@甲斐さん〉。〈甲斐に住んでいる者です。/先日、同盟を破ったことが原因で塩の流通を止められてしまいました。甲斐は内陸国なので塩の生産ができず、大変困っております。/なにか良い方法はないでしょうか?〉。〈ベストアンサーに選ばれた回答〉は〈窮地のときほど、普段意識していなかった人からの助けがあることも多いので、あせって行動せず、しばらく様子を見られてはいかがでしょうか?〉。そして〈質問した人からのコメント〉。〈おっしゃる通りしばらく様子を見ていたら、近隣の方から塩をいただくことができました!〉
 この話にはまだ先がある。上杉謙信からヤマト運輸ならぬ〈センゴク城急便〉で塩が届くも城が留守だったための「ご不在連絡票」。最後は信玄のお礼メールだ。〈上杉様/お世話になっております、甲斐の武田です。/川中島の戦いでは大変お世話になりました。/霧の日はばったり敵軍に出くわさないか、/いまだにビクビクしております(笑)〉
 驚くべき芸の細かさ。私たちの周囲にはこれほど多くの「文体」があったのかと思い知らされる。これはもう現物を見ていただくしかない。
 日本史嫌いのお子様にも歴史音痴の会社員にも好適な副読本(嘘)。副題は「日本史パロディ 戦国~江戸時代篇」。著者のスエヒロ氏はウェブメディアの編集者だそうだ。

週刊朝日 2015年6月12日号


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