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鬼はもとより
話題の新刊
2014/11/19 15:49
藩札とは、江戸時代に各藩が発行していた紙幣のこと。発行元の藩の財政への信頼が強ければ、藩領を越えてまで流通するが、ひとたび信用が失われれば取り付け騒ぎが起こり、一気に紙くずとなる。本書はこの藩札を主題に据えた新機軸の時代小説である。
江戸中期、藩の財政が逼迫しつつあるなか、この藩札を管理する藩札掛となった主人公は、藩札の流通管理こそ、武士の生き方にふさわしい御勤めと確信する。そして藩が実体経済に合わない大量の藩札刷り増しを命じると、命を賭してそれを拒み、藩札の原版を抱えて脱藩する。そして江戸でフリーの藩札コンサルタントとなり、ある弱小藩の財政立て直しに挑むのである。
斬新な設定、簡潔で洗練された文体、緻密な構成、当時の町並みが目に浮かぶような情景描写、いずれもが素晴らしい。そして現在の金融問題も想起させつつ、職業人としてのまっとうな生き方を読者に問うてくるのだ。
言うまでもなく硬派な小説であるが、実は男と女の愛のあり方を少ない言葉で見事に描いていることにも感服する。
※週刊朝日 2014年11月28日号
鬼はもとより
青山文平著


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