書評『考える力、やり抜く力 私の方法』中村修二著 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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《今週の名言奇言 (週刊朝日)》

考える力、やり抜く力 私の方法 中村修二著

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斎藤美奈子書評#今週の名言奇言

ノーベル賞は通過点の一つにすぎない。

 先日ノーベル物理学賞の受賞が決まった中村修二さんがこんな本を出していたとは。ビジネスマン向けの自己啓発書? 『考える力、やり抜く力 私の方法』は2001年発行だが、ノーベル賞効果で増刷され、もっか書店でも平積みである。
 読んでみると、これは青色発光ダイオードの開発秘話、あるいは〈アメリカ人でも羨むような別天地へ、つい先日まで徳島県の山奥でうらぶれたサラリーマンをしていた男がなぜ住めるようになったのか〉を語った「どんなもんだい本」だった。
 自分には2度の「コンチクショー」があったと中村さんはいう。
 1度目は徳島の会社にいた頃。徳島大学の修士課程を終え、京セラを蹴って徳島県の日亜化学工業に就職。10年間で三つの製品を開発するも、無名の会社ゆえにまったく売れず、〈ボロクソに言われた〉。しかも給料は上がらず、いつまでも平社員。キレた彼は〈好き放題やってやれ、それでダメなら会社を辞めてやると決心したのだ〉。
 2度目はアメリカに短期留学したとき。ドクター(博士号)を持たず、会社の機密保持という理由で論文もなかったために〈研究者から、装置の組み立てなど人手がいる時だけに呼ばれる一労働者におとしめられてしまったのだ〉。ならば〈自分を馬鹿にした奴らを、論文を書いてギャフンと言わせてやる〉。
 こういう立志伝は、万民受けするよね。一種の復讐劇だから。
 こうして20世紀中の完成は無理といわれていた青色発光ダイオードの研究に着手。それも成功の可能性が高いセレン化亜鉛ではなく、可能性はゼロに近かった窒化ガリウムを材料に選んでのチャレンジが、後の成功につながるわけだが……。
〈私にとってはあくまでもアメリカン・ドリームが目的なのであって、ノーベル賞は通過点の一つにすぎない〉。受賞決定後の会見と同じことを十数年前にもう書いちゃってる自信家ぶり。産学協同時代を生き抜くには大言壮語も芸のうちってことか。
週刊朝日 2014年11月14日号


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