- エンタメ
- 記事
「世界遺産」の真実
2013/07/10 17:28
富士山(正式には「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」)がユネスコの世界文化遺産に登録され、地元もメディアも祝賀ムード一色である。
しかし、そもそも世界遺産って何なのか。佐滝剛弘『「世界遺産」の真実』は原点に戻って「猫も杓子も世界遺産」なニッポンをふりかえるのにちょうどいい本だ。副題は「過剰な期待、大いなる誤解」。
たとえば富士山はかつて、ゴミの山のために世界遺産になれない、といわれていた。だがそれは間違いだと著者はいう。当初、富士山は世界自然遺産を目指していたが、富士山には貴重な動植物が多数生息しているわけでもなく、世界規模で地質学的な重要性があるともいえない。姿は美しいが、世界に目を向ければ同様の独立峰は多数ある。トルコのアララト山も、アメリカのマウント・レーニエも富士山よりはるかに標高が高く見事な山容を持つが、世界遺産でない。富士山は〈ごみがあろうがなかろうが、少なくとも自然遺産としての登録基準を満たしていなかった〉のである。
世界遺産待望論ばかりが渦巻く中で、むしろ見識を示したのは山形県の例だろう。山形では「最上川の文化的景観」の世界遺産登録を目指していたが、2009年に知事が交代し、登録推進事業を中止した。事業の継続を望んでいたのは市町村長35名中6名。〈なるほど、県は住民の意向を無視して、世界遺産登録に邁進していたんだな、ということがくっきりわかる〉例である。
平泉の世界遺産が「延期」になった後の2009年の本ながら、事情はいまもほとんど変わらない。
行政トップの独断による登録運動。結果が特定できない事業に行政が使う多額の税金。しかもそれはコンサルタント会社に丸投げだったりする。〈世界遺産は崇高な理念を掲げた原点に戻るべきだ〉と著者はいう。商業主義にまみれたオリンピックの轍を踏まないためにもと。そう、世界遺産登録活動は五輪誘致活動ともよく似ているのである。
※週刊朝日 2013年7月19日号
「世界遺産」の真実
佐滝剛弘著


あわせて読みたい
別の視点で考える
特集をすべて見る
この人と一緒に考える
コラムをすべて見る
カテゴリから探す
-
ニュース
-
教育
-
エンタメ
-
スポーツ
-
ヘルス
-
ビジネス