民王

今週の名言奇言

2013/06/27 15:47

 国会の答弁に立った総理大臣はぎこちなく原稿を読みはじめた。「我が国はいま、アメリカ発の金融、えーと、金融キキンによる、あー、ミゾユーの危機にジカメンいたしており……」「一部の業界においては大型倒産がハンザツし、製造業においては、ハヤリ労働者切りの問題が……ワカオキしておりまして」
 金融キキンは金融危機、ジカメンは直面、ハンザツは頻発、ハヤリ労働者は派遣労働者、ワカオキは惹起。ミゾユーは説明の必要もないだろう。
 池井戸潤『民王』は今月の文庫新刊。「民主」の間違いではなく「タミオウ」。漢字が読めない首相を主役にした、これはミゾユーの政治エンターテインメントなのである。
 もっとも現実とはちがい、この首相が漢字を読めないのには理由があった。彼は外側こそ民政党総裁の武藤泰山首相だが、中身は出来の悪い大学生である息子の翔。作中でも「くだらない映画みたいに?」と揶揄(やゆ)されているように、これはよくある「入れ替わりモノ」なのだ。
 前任者が2人も立て続けに辞任した後、解散総選挙の管理しか期待されていない武藤首相。授業も受けず遊び暮らしていたとはいえ、政治家になる気はさらさらなく、もっか就活中の翔。2人が国政の場で、あるいは面接試験でどう対処するかが本書の読みどころなのだが、アハハと笑ってばかりもいられない。
 麻生太郎内閣の末期(2009年8月)にウェブ連載がスタートし、鳩山由紀夫内閣の末期(10年5月)に本になり、安倍晋三内閣の参院選直前に文庫になる、このタイミング。この際、現首相の中身も誰かと入れ替わってもらえないだろうか。たとえば夫人の昭恵さんとか。
 首相には「私は原発反対なので非常に心が痛む」「日本発のクリーンエネルギーを海外に売り込んだらもっといい」と語った夫人になっていただく。現首相は韓流ドラマで隣国への理解を深めていただく。ついそう考えたくなるほど、現実の政治が危機にジカメンしてるってことですよ。

週刊朝日 2013年7月5日号

民王

池井戸潤著

amazon
民王

あわせて読みたい

  • 第2回 素晴らしかった小渕内閣

    第2回 素晴らしかった小渕内閣

    週刊朝日

    7/29

    菅田将暉の「民王」が最高! 久々の「ミゾウユウ」に元首相もびっくり?

    菅田将暉の「民王」が最高! 久々の「ミゾウユウ」に元首相もびっくり?

    週刊朝日

    8/21

  • 第3回 「改革」を阻む「凡庸」

    第3回 「改革」を阻む「凡庸」

    週刊朝日

    8/5

    田原総一朗「“反民主的”安倍内閣と自民党の国民軽視は看過できず」
    筆者の顔写真

    田原総一朗

    田原総一朗「“反民主的”安倍内閣と自民党の国民軽視は看過できず」

    週刊朝日

    7/17

  • 「格差」の視点で平成を振り返る 転換点はどこだったのか

    「格差」の視点で平成を振り返る 転換点はどこだったのか

    AERA

    4/9

別の視点で考える

特集をすべて見る

この人と一緒に考える

コラムをすべて見る

カテゴリから探す