水難現場から上流を見たところ。コンクリート壁の堤防にはステップが設けられていた
水難現場から上流を見たところ。コンクリート壁の堤防にはステップが設けられていた

 水に落ちた子どもを助けようとして、飛び込んだ大人が亡くなる悲劇が後を絶たない。4月、5月、特にゴールデンウイークは、こういった事故が頻発するという。専門家は、ふつうの人が溺れている人を救助するのは無理なので、絶対に飛び込まないでほしいという。では、どう対処すればいいのか、一般社団法人水難学会の斎藤秀俊会長に聞いた。

【事故が置きた現場付近の写真はこちら】

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 また悲劇が起きた。

 4月7日、小学2年の男児(7歳)と40代の男性が東京都板橋区蓮根3丁目の新河岸(しんがし)川で溺れ、亡くなった。男性は川に転落した男児を助けようと、水に飛び込んだものの行方不明となり、4日後に遺体で発見された。

 現場は都営地下鉄三田線・西台駅から北へ約400メートル。住宅地を抜けると川岸があり、すぐ手前にはブランコやすべり台が置かれた児童公園がある。

東京都板橋区を流れる新河岸川の水難現場には花束や菓子とともに、缶ビールが置かれていた
東京都板橋区を流れる新河岸川の水難現場には花束や菓子とともに、缶ビールが置かれていた

 公園から川に目を向けると、堤防の上には桜並木があり、その一本の根元にはたくさんの花束が置かれていた。近づくと、子どもが好きな菓子といっしょに、缶ビールが供えられていた。

 川岸は鋼鉄製の矢板を打ち込んだ垂直護岸で、川面から岸までの高さは1メートル以上もある。まったく手がかりはなく、水中に転落すれば自力で這い上がることは不可能だ。ただ、川の流れはかなりゆるやかで、100メートルほど上流には上陸できそうな岸辺もある。

■9割の人はすぐ沈む

「100メートル」は、もし泳ぎに自信があれば、救助できる距離といえるのだろうか――そんな疑問を長岡技術科学大学の斎藤秀俊教授にぶつけると、「絶対に無理です。助けようとした人といっしょに沈んで、命を落とします」と、断言する。

 齋籐教授は一般社団法人水難学会の会長を務め、長年、水難事故の解析を行うとともに、水難から生還する方法を普及してきた。では、なぜ水に飛び込んで溺れる人を救助する行動がそれほど危険なのか? 斎藤教授は、30年以上指導員を務めてきた日本赤十字社の水上安全法救助員養成講習会を例に、説明する。

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泳ぎに自信あっても立ち泳ぎはきつい