先月、東京・南青山で開催されたスパイラル アートフェスティバル「SICF21」には、公募で選出されたさまざまなジャンルのクリエイターの作品が集まった。そのなかに写真家・四方花林さんの作品があった。
女性が浅い水辺を舞台に踊っている。薄紫色の布をまとい、ヤナギのような細い葉のついた枝をにぎり、なまめかしく動く体。透けて見える緑がかった茶色い湖底。画面全体がブレ、ピントがどこに合っているかも定かではない。情熱的な体の動きと、陰影のはっきりしない弱い光に照らされた水面とのコントラストが不思議なイメージをつくり出している。
となりの壁面に飾られた作品では細い両腕が水面を背景に交差し、神秘的な美しさをたたえている。その美しさの源は指先の動きにあるようだが、やはりブレていて、いくら観察してもそれが何なのかはよくわからなかった。
後日、四方さんにインタビューすると、「見えないことの美しさみたいなものを追求しました」と説明され、作品に写っていたものがストンとふに落ちた。
「カメラの目を通すことで、揺らぎの残像をとらえたい。人の目では見られないものを撮りたい」というコンセプト。それは「目を退化させて景色を見る感覚」だとも言う。
作品づくりのきっかけを聞くと、最近のデジタルカメラやスマホのカメラが写し出すパリッとしたイメージに違和感があったという。
「肉眼で見るよりもきれいに見える、なんか見えすぎているな、と思っていたんです」
撮影テクニック的にいうと、人の動きを残像として表現するには遅めのシャッター速度でブレを生かして写すのが常道だが、四方さんはそれに加えて特殊な方法を駆使してピントをボカすこともあるという。
■期限切れのフィルムを買いまくったり、フィルムをゆでたり
興味深かったのは、四方さんがアシスタント時代、多くを学んだというドイツ人写真家、オラフ・ブレッカーの作風との大きな違いだ。彼が写した雑誌「TIME」の表紙やドナルド・トランプ大統領、メルケル首相などのポートレートを見ると、欧米では王道といえる硬めのライティングを使い、緻密な描写をしている。