「7月の上旬に、スーダンの外交官の子どもがタイ入国後、自宅でコロナ陽性が発覚し、タイ国内は騒然としました。外交官は特例で、入国後の“14日間の隔離”は免除されていますが、それ以降、外交官も隔離が義務化されました。

 そして同じ日にもう一つ事件が起きました。新型コロナウイルスの陽性判定を受けたエジプト軍の兵士が、タイ中部のラヨーン県の街なかを歩き回り、デパートなどに立ち寄っていたことが判明したのです。おかげでラヨーン県からバンコクに行くことが禁止されたり、ラヨーン県内のホテルの予約の9割がキャンセルされたりしてパニックになりました。

 タイ国内では、痛みを伴う感染封じ込め対策を徹底してきたので、タイ人たちは外国人が外からウイルスを持ち込むことを極端に恐れています。たった1人、2人の陽性者が街を歩いただけでこの騒ぎですから、“14日間の隔離”なしで外国人の入国を受け入れるのは、まだまだ先になりそうです。ワクチンが出回るまでは難しいのではないでしょうか」

 もはや感染者を恐れているというより、外国人がウイルスを持ち込むのではないかということを現地の人々は恐れているようである。そういう面では、ある意味で新型コロナウイルスに対する危機感は、日本人よりもシリアスなのかもしれない。

 この感覚が、今後、日本人旅行者のタイへの渡航が本格的に始まったとき、どのような影響を及ぼすのか。現時点では、あまり前向きな状況ではないように思える。(文/丸山ゴンザレス)

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丸山ゴンザレス

丸山ゴンザレス

丸山ゴンザレス/1977年、宮城県出身。考古学者崩れのジャーナリスト。國學院大學大学院修了。出版社勤務を経て独立し、現在は世界各地で危険地帯や裏社会の取材を続ける。國學院大學学術資料センター共同研究員。著書に『世界の危険思想 悪いやつらの頭の中』(光文社新書)など。

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