57年ぶりにカムバック! 米ユタ州のヘビー級蒸気機関車「ビッグボーイ」
連載69 櫻井寛のぞっこん鉄道 麗しき名列車

午前7時、オグデン・ユニオン・ステーションでウォーミングアップ中の「ビッグボーイ」。車体の大きさのあまり、動輪が小さく見えるが、実は1726ミリ。日本最大のC62形とほとんど変わらないばかりか、最高速度は時速100キロ超というから驚きである。手前の筋状の影は、実は見物の人影である■オリンパスOM-D E-M1 MarkII・12~100ミリF4・絞りf7.1・ISO800・AE・-0.7補正・JPEGスーパーファイン(撮影/櫻井寛)
【名前は落書きが由来!?「ビッグボーイの顔」はこちら】
その前に、「ビッグボーイ」について簡単に解説すると、世界最大級の蒸気機関車が、ユニオン・パシフィック鉄道の4000形「ビッグボーイ」である。全長40.7メートルは、JR在来線車両2両分の長さに匹敵し、総重量は500トンを超える。日本最大のC62形が145トンなので、実に3.5倍近いヘビー級機関車だ。
1941年に誕生し、配置されたのはユタ州オグデンから、ワイオミング州のグリーンリバーに至るロッキー山脈越えの勾配区間だった。その勾配は1000分の11(1000メートル進む間に11メートル上昇)程度なので、日本の1000分の25、33などからみれば大したことがないように思えるが、なんと勾配区間は283キロも連続していた。この長大なロッキー越えに、それまでの蒸気機関車は重連(2両)、3重連(3両)を要したが、「ビッグボーイ」は1両で5000トンの貨物列車を軽々と牽引したという。けれども、近代化の波が訪れ、62年にディーゼル機関車にバトンタッチしたのであった。
それから57年の歳月を経た今年5月、「ビッグボーイ」は大陸横断鉄道開通150周年を記念して復活した。5月12日の早朝5時半、夜明け前のオグデン・ユニオン・ステーションで、私は初めて「ビッグボーイ」と対面した。デンバーの鉄道博物館で静態保存の「ビッグボーイ」を見たことはあったが、「生きているビッグボーイ」は初めてだった。

白銀のロッキー山脈をバックに力走するUP4014号「ビッグボーイ」(先頭)。水槽車を挟んで2両目の蒸気機関車はUP844号「リビング・レジェンド」。さらに水槽車とDL「ビルディング・アメリカ」が連結され、その後にUPの客車が続く。線路と並行するインターステート84号は大渋滞となった。57年ぶりの復活とあっては致し方ない■オリンパスOM-DE-M1 M・12~100ミリF4・絞りf5.6・ISO200・AE・マイナス0.7補正・JPEGスーパーファイン(撮影/櫻井寛)

ビッグボーイの顔。煙室扉に「BigBoy」とあるが、デビュー当時、ロッキー山脈の一部をなす山脈名から「ワサッチ」と決まっていたのだが、この落書きによって「ビッグボーイ」に変更された(撮影/櫻井寛)
来た!「ビッグボーイ」だ。言葉にならない感動が五感を貫く。久々に鳥肌が立つのを感じながら夢中でシャッターを切った。
写真・文=櫻井寛
※『アサヒカメラ』2019年9月号から抜粋

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