【綿密なコミュニケーションが信頼に プリントディレクターと作家を結ぶ】
ディレクターとして作品づくりに携わるなかで大切にしているのは、どのように見せていきたいのかを丁寧に聞くことです。紙によってトーンが違ったり、質感が違ったりしますから、どれが正解と決めることはできません。作家のゴールを見据えて提案するため、寄り添う気持ちで対話することが大切なのです。
提案といってもプリントだけとは限りません。最終的な見せ方によって額装やパネルの加工法、使用期間によって選択の基準や素材も異なります。なかでも用紙の選択が大きなポイントで、紙によって仕上がりは違ってくるのです。作品の背景や作家の思いをヒアリングしながら、ベストな見せ方を探っていきます。
私の役割は作家とプリントディレクターの間に立って両者のイメージをつなげることだと思っています。例えばマゼンタを少し抜いてほしいという要望があれば、その場でプリントディレクターにも立ち会ってもらい、時にはディスプレーを前にして、作家の求める微妙なニュアンスを目で理解してもらいます。そして数種類の紙にプリントし、モノとして確認することで言葉だけでは共有できない部分を詰めていきます。銀塩ほどドライダウンが激しくないので、その場で判断しやすいのがインクジェットのメリットでもあり、同時に作家とプリントディレクターの信頼関係にもつながります。
ご自分でプリントすることも非常に大事なことですが、第三者との対話を通して作品を仕上げていくことで作品に対する新しい発見が得られたり、客観的なアドバイスを受けられる機会にもなります。
またプリントを見据えた作品づくりの視野をもつことで機材の選択も変わり、作品をアップデートしていくきっかけにもなるかもしれません。
私たちはラボにおいて、プリントディレクターの技術的な観点をとりいれつつ、作家の思い描くゴールまで寄り添いながらクオリティーの高いプリント、作品づくりを目指していくのです。(談)
文 : 石川悦郎 撮影 : 大貝篤史
※アサヒカメラ2019年5月号より抜粋