こうした部分はアナログとデジタルのわかりやすい違いですが、インクジェットの選択肢にも関心を持っています。

 同じデータをプリンターと紙を変えてインクジェットでプリントしてもらったところ、表面のディテールだけでなく色の出方もぜんぜん違ってくることに驚きました。自分自身はアナログがきれいだと思っていたのですが、デジタル分野はニーズが大きいだけに、技術の進歩も顕著で、インクジェットは、しばらく見ないうちにこんなにきれいになっていたのかと感じました。

 いろいろな写真家の作品をとにかく見て、見続けた後に自分のやりたいことが見えてくるのだと思うのです。それを実現するのがプリントのよさです。最終的な求めに合わせて紙やカメラを選ぶことが大切だと思っています。プリンターや紙を変えてプリントした作品を見比べると、大きな差が生じます。そのうちどちらかが優れているかを論理的に説明することはできません。好みもあるでしょう。でも、これは好みだけではなくて、いろいろなものを見て目を育てたうえで選択するのが大切なのです。それがプリントに共通する考え方です。

 自分の目指したイメージを探っていくなかで、求めていた方向性とは違う部分によさを見つけることもあります。その発見と、試行錯誤を繰り返して経験を積むと、理解が深まっていくのだと思います。個人ではプリンターや紙をいくつも変えて比べることが難しいものですが、そうすることによって見えてくるのがプリントの楽しさだと思います。

 写真家にとって大切なのはなによりも作品を見ていただくこと。そのために重要なのがプリントです。研鑽を重ね、プリントのクオリティーを追求していくことが、より美しいゴールにたどり着くための方法なのだと考えています。作品の存在をプレゼンすることも必要ですが、まずプリントした作品を見て、きれいだなと思うことが必要なのです。(談)

高橋宗正(たかはし・むねまさ)氏1980年東京生まれ。2001年日本写真芸術専門学校を卒業。02年写真ユニットSABAにより写真新世紀優秀賞を受賞。11年から東日本大震災における津波に流された写真を持ち主の元に戻す「思い出サルベージ」に副代表として参加。同活動の中から「Lost & Found project」を12年に立ち上げ、世界12カ所で展示。この二つのプロジェクトをまとめた写真集『津波、写真、それから』を14年に刊行する。15年、写真レーベルVEROを立ち上げ、写真集『石をつむ』を出版。
高橋宗正
(たかはし・むねまさ)氏
1980年東京生まれ。2001年日本写真芸術専門学校を卒業。02年写真ユニットSABAにより写真新世紀優秀賞を受賞。11年から東日本大震災における津波に流された写真を持ち主の元に戻す「思い出サルベージ」に副代表として参加。同活動の中から「Lost & Found project」を12年に立ち上げ、世界12カ所で展示。この二つのプロジェクトをまとめた写真集『津波、写真、それから』を14年に刊行する。15年、写真レーベルVEROを立ち上げ、写真集『石をつむ』を出版。

作家と同一のゴールを目指し寄り添いながら実現へ
──── アートディレクター・小池莉加氏

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