令和2年3月16日にODR 活性化検討会によりまとめられた「ODR 活性化に向けた取りまとめ」より
令和2年3月16日にODR 活性化検討会によりまとめられた「ODR 活性化に向けた取りまとめ」より

 こういったトラブルに直面したとき、一般的には、なんとか解決できないものかと、まずは自分でできるアクションを取る。たとえば、インターネットで検索したり、家族や友人に聞いてみたり(なお、弁護士等専門家に相談する人の割合は少ない)。ところが、多くの場合、スムーズに解決までたどり着くことができない。結局、問題解決に至るまでの遠い道のりに直面し、「泣き寝入り」が合理的な選択肢だと気づくことになる。【図1】(※外部配信先では図版などの画像が全部閲覧できない場合があります。図版をご覧になりたい方は、AERA dot.でご覧ください)は「法的紛争の一般的解決フロー」を示したものだが、紛争が発生してから裁判を利用するまでの間にも、多くの段階があることがわかると思う。

 インターネットの普及で私たちの生活は間違いなく便利になった。しかし、一度トラブルが起きると、その解決は容易ではないのだ。『ハーバード流交渉術』(三笠書房・2011年)の著者として知られるフィッシャー教授とユーリ教授は、1980年代に「紛争は成長産業である」と述べていたが、その言葉のとおりに、紛争の数は増えつづけている。

 たとえば、国民生活センターには毎年100万件近くの相談や苦情が寄せられる。他にも全国各地に行政の各種相談窓口があり、民間企業もカスタマーセンター等で苦情等の受付をしていることを考えると、社会全体におけるトラブルの数は相当数に上るはずである。

 デジタル社会は商品やサービスの利用を容易にしたが、その陰で多数のトラブルが発生している。まさにデジタル化による負の副産物である。他方で、2022年現在、一般人にとって使いやすくトラブル解決を容易にする、オンライン紛争解決の仕組みは、まだ日本社会で広まっていない。

■スタンフォードでの研究のきっかけ

 紛争解決に新たな選択肢をもたらすODRは、この分野のイノベーションになる。そう考え、筆者はこれまで法とテクノロジーの融合領域に関する研究をしてきた。そして、そのきっかけとなったのがスタンフォードロースクールのADRセンターでの在外研究である。

次のページ
日本での社会実装が研究テーマの中心に