指の爪の先が皮膚から浮いてしまう――。そんな悩みを訴える女性が皮膚科に訪れるそうです。これは「爪甲剥離(そうこうはくり)症」という病気で、皮膚科で扱うものです。近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授の大塚篤司医師が解説します。
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皮膚科を受診される患者さんの中には、爪の悩みで病院を訪れる人がいます。手の爪、足の爪は、異常があれば気が付きやすい部位ですし、特に手の爪は人の視線も気になる部位です。「爪は皮膚科で良いですか?」と迷いながら診察室で相談を受けることも多いのですが、爪も皮膚の一部です。なので、皮膚科で間違っていません。今回は、爪の相談で特に多い、爪甲剥離について解説したいと思います。
爪甲剥離症は、爪の先端が皮膚から浮いてしまう病気です。手と足の爪、どちらにも出現します。爪甲剥離を主訴とする患者は比較的多いとされています。しかし、その原因についてはまだ十分な解明がされていません。爪甲剥離症は、主に女性の手の爪、特に人さし指と中指の爪に起きることが多く、指が濡れる仕事に従事している人に生じることが多いとされています。
私たち皮膚科医が、爪甲剥離症の患者さんを診察した際に考える原因は、甲状腺の異常によるものや尋常性乾癬(かんせん)、湿疹などによる変化、爪にカビが生えた場合、化学薬品の作用、けがなどを思い浮かべます。個人的には、カンジダというカビが爪に感染したせいで、爪甲剥離を起こした患者さんを診るケースが多いと思います。一方で、全身性の疾患に関連して生じている例は少ないと言われています。珍しいものとしては、抗生物質の一つであるテトラサイクリンを内服している最中に爪に日光照射を受けると、爪甲剥離が生じることが報告されています。
治療法は、原因によって異なります。私はカンジダ感染による爪甲剥離を診ることが多く、抗真菌剤を治療に用います。一般的には、約3カ月で治療が可能です。ただし、爪が浮いている部分や剥がれている部分を、爪切りやはさみでしっかり取り除くことが必須です。これが徹底的にできれば、爪甲剥離症を抗真菌剤の塗り薬で治療することも可能です。爪甲剥離に対し、タール剤が有効であるとの報告もありますが、タール剤の乱用は皮膚がんのリスクもあるので一般の人は避けたほうが良いでしょう。