ただ、愛好家にとってサウナや水風呂、その後の外気浴が気持ちいいことは事実だ。身体への負担が大きいのに、なぜ気持ちがいいと感じるのか。

 梶本医師によると、β-エンドルフィンという物質など、気分の高揚や幸福感を得られる「脳内麻薬」が関係していると考えられる。

 マラソンで苦しい状態が続いた後、多幸感や陶酔感を覚える「ランナーズハイ」と呼ばれる現象が起きることはよく知られるが、それと同じ現象がサウナでも起きているというのだ。

「動物は子孫を残すため生きることに忠実ですが、ヒトは脳の前頭葉が発達しているため、自己利益を実現する『欲』を持ちます。欲によって脳の報酬系と呼ばれる回路の働きが活発になり、『もっと、もっと』という精神状態になってしまう。これが災いしているのがサウナやその後の水風呂です。体には良くないことが分かっていたとしても『もっと快楽を』と、のぼせるまで頑張る人が出てしまうのです。ランナーや筋トレ愛好家でも、常に脳内麻薬による快感を求めてトレーニングを休めなくなる方がいます」

 自律神経の機能は20歳を「100」とすると、40歳で半減、50歳で3分の1、60歳で4分の1に減るのだという。体の調子を整えてくれる力が、ガクッと衰えていくということだ。

 脳内麻薬のおかげで、身体の悲鳴にはなかなか気づくことは難しい。梶本医師も「体に悪いと知っても、やめようとは思う人は少ないと思います」と話し、こうアドバイスする。

「水分をしっかり補給する。絶対にのぼせるまで入らず、サウナを出た後は、ぬるいシャワーで体を冷やす、涼しい部屋で過ごすなど、脳と体を守る基本は大切にしてください。また、年齢により自律神経が衰えるということをしっかり理解して、若い時よりも入る時間を短くすること。高齢になると温度を感じる機能が鈍くなりますので、のぼせに気づきにくくなりますからね」

 サウナに入るかは個人の自由だ。ただ、快感を味わうだけではなく、自分へのいたわりも必要であることは心得ておきたい。(AERA dot.編集部・國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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