里英さんは「ただ、うまくいかない現状から逃げたかっただけなんです」と話す。写真はイメージ(PIXTA)
里英さんは「ただ、うまくいかない現状から逃げたかっただけなんです」と話す。写真はイメージ(PIXTA)

ひとつ屋根の下に同居していても、夫と妻で「見えている景色」が違うことは少なくない。大阪府に住む小柴さん夫婦も、さまざまな「すれ違い」が重なって離婚危機にまで至った過去がある。「前編」では、夫の孝雄さんが妻の親に「DV」だと言われ子どもを連れ去られそうになったが、それがいかに誤解だったかという夫側の主張を聞いた。「後編」では、妻の側からなぜ夫への不満がふくらんでいったのか、どのような行為が「DV騒動」へとつながっていったのかをインタビューした。

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「夫は天才肌で、考え方がちょっと独特なんです。世間一般の常識とは違うけれども、話を聞けば筋が一本通っている。私は自分の意志が弱く優柔不断なほうなので、私にはないものを持っているところに惹かれて一緒になりました」

 小柴里英さん(仮名・25歳)は、保育士として働きながら1歳半の子どもを育てる母親だ。「前編」で紹介した孝雄さん(仮名・41歳)の妻で、夫とは離婚危機がありながらも今も一緒に暮らしている。

 里英さんは新潟県で生まれ育ち、進学を機に上京。卒業後はそのまま東京で、保育士として働いていた。後の夫となる孝雄さんとはオンラインゲームを通して知り合った。その当時、里英さんは東京で知り合った彼氏と同棲中だったがあまり関係がうまくいっておらず、その寂しさを埋めるようにゲームに逃げ込んでいたという。

「チャット機能で夫と話すようになり、年上で頼りになるなと思っていろいろ相談していました。当時、仕事も恋愛も親との関係もうまくいっていなくて、精神的に行き詰まっていたんです」

 里英さんの両親は、里英さんが高校3年生のときに母親が家を出る形で離婚していた。けんかばかりの姿を見ていたので、破綻したこと自体に驚きはなかった。だが、親に甘えられない子ども時代を過ごしてきたことで、離婚後はよりいっそう親と心の距離ができてしまっていた。

「一度上京したからには、もう親には頼れないと思い込んでいたんです。彼氏とうまくいかなくなってからは、本当はいったん実家に戻りたかったんですけど、そのころ父親は新しい女性と一緒に暮らし始めていたので、遠慮していました」

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「夫の言うとおりにしたら、うまくいった」