北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表
北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

 世論を分断させるような「国葬」に対する強硬姿勢もそうだが、「岸田さんて、やばい人?」と不安が確実に深まったのは、7月26日に加藤智大死刑囚に刑を執行したときだ。死刑執行の順番や時期がどのように確定されるのかは一貫して伏されているが、「山上徹也容疑者は死刑になるのか?」ということが話題になっていた時期に、山上容疑者と同世代であり、ロスジェネの不遇の象徴のように語られてきた加藤死刑囚を刑に処する内閣の意図は無視するわけにはいかない。無自覚であればそれはそれで恐ろしく、意図的であるとするならばそれはそれでさらに怖いというものだ。

  いったん「この人怖い人?」と思うと、何でも怖く感じてしまうが、8月14日に妻としたというゴルフレッスンも怖かった。報道によれば「近くとる夏休み中にゴルフをする予定があり、そのための事前練習とみられる」……そうである。ゴルフをやらない私には全くわからない感覚なのだが、ゴルフに行くためのゴルフ……というのは、仲間の安倍さんの四十九日も済んでいないとき、国葬に対する世論が分断されているとき、コロナの新規感染者数が世界最多になってしまっている今、よくわからない内閣改造で世間がモヤモヤしている最中でも、絶対にしなくてはいけないものなのだろうか。というか、夏休みを待ちきれない様子の首相の姿が、私には不思議で怖い。

 岸田さんが、夏休みのゴルフのためのゴルフレッスンに行った8月14日は、1991年、「慰安婦」にさせられた韓国人女性の金学順さんが声をあげた日だった。死にゆく戦場の男たちを癒やすロマンのように語られてきた日本軍「慰安婦」が、凄絶(せいぜつ)な性暴力であったと告発された日だ。この日は世界中で、金学順さんの勇気をたたえるイベントなどが行われ、私もオンラインイベントに参加し、「最後の証言」というドキュメンタリーを見た。金学順さんが1997年に亡くなる直前に撮られたインタビューを元にしたものだが、2015年に突如発表された「日韓合意」に抗議する若者たちの姿が中心に描かれていた。映像の中には、岸田さんの姿が幾度も映っていた。

次のページ
安倍政権で「日韓合意」の立役者となった