マッチングアプリの普及により、将来の結婚をほのめかしてターゲットを取り込む手口が増えているという(gettyimages)
マッチングアプリの普及により、将来の結婚をほのめかしてターゲットを取り込む手口が増えているという(gettyimages)

 正体を隠して勧誘する宗教団体とともに、全国の大学などが警戒を呼びかけ続けているのが、いわゆる「マルチ商法」の勧誘被害だ。「欲を出してだまされた」「もうけ話に乗った方が悪い」との自己責任論も散見されるが、専門家によると悪質な宗教団体と同様に、ターゲットをマインドコントロールで支配していくのだという。マルチの勧誘実態と、コロナ禍以降に目立つ手口を取材した。

【写真】かつて社会問題となった宗教団体「摂理」の現在

*  *  *

「私たちの将来のために、もっと収入がいるよね」

 都内のとある喫茶店でそう切り出した若い女性に、深くうなずく若い男性。

 一見すれば結婚へと向かう幸せそうなカップルの会話だが、実は女性は、あるマルチ商法の一員である。2人はマッチングアプリで出会い、“お付き合い”を始めたばかりなのだが、本気の交際に発展すると信じているのは男性だけなのだ。

 私たちのためにもっと収入を――恋人との将来を守りたい男として、稼ぎを増やすのは当然だと信じている男性はこの瞬間、マルチ商法に引きずり込まれる入り口に立たされたことには気が付いていない。

■結婚をほのめかして取り込む

 ある民間企業の調査によると、コロナ禍が始まって以降に交際を始めたカップルの出会いのきっかけ1位は、マッチングアプリだという。コロナ禍前から付き合っているカップルでは「職場」が1位で、マッチングアプリは4位だった。

「マルチ商法やマルチまがいの勧誘は、大学生や20代の若い世代を狙うケースが大半です。コロナ禍でリアルの出会いが減り、手軽に相手と会えるマッチングアプリが普及したことで、恋愛仕掛けや将来の結婚をほのめかしてターゲットを取り込んでいく手口が増えています」

 そう話すのは詐欺や悪質商法に詳しく、日本脱カルト協会の代表理事も務める立正大学の西田公昭教授(社会心理学)だ。

 西田教授によると、コロナ禍以降はマッチングアプリの他、ツイッターなどのSNSで接触してきたり、オンラインサロンを通じて勧誘してきたりする事例が目立つという。

著者プロフィールを見る
國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

國府田英之の記事一覧はこちら
次のページ
そもそも「マルチ商法」とは…