平昌五輪では羽生結弦(左)が金、宇野昌磨は銀でともに表彰台に上がった
平昌五輪では羽生結弦(左)が金、宇野昌磨は銀でともに表彰台に上がった

「背中を追い続ける僕にとっては大きな道標でもありました」

【写真】宇野と羽生、平昌五輪の舞台裏での“仲睦まじい”場面

 羽生結弦が記者会見でプロ転向を表明したことを受けて発表された宇野昌磨のコメントの中には、そんな言葉があった。

 2019年12月、国立代々木競技場第一体育館(東京)で行われた全日本選手権は、インフルエンザ罹患や怪我のため3年連続で欠場していた羽生にとり4年ぶりとなる全日本であり、宇野にとっては羽生不在の中で3連覇して迎える全日本だった。

 羽生は2週間前に行われたグランプリファイナルで、ネイサン・チェンとの勝負に全力で挑んだものの2位となり、消耗が激しい中で全日本に臨んでいた。一方宇野は幼い頃より師事していた山田満知子コーチ・樋口美穂子コーチの下を離れ、シーズン開幕時はメインコーチ不在の状態だった。グランプリシリーズではジャンプのミスを繰り返してファイナル進出を逃していたが、その結果、全日本に集中して調子を整えることができていた。

 ショートプログラムで羽生が首位に立ち、宇野は2位につけて迎えたフリー。宇野は、いくつかミスをしながらもなんとか演技をまとめる。一方、羽生は連戦の疲れが一気に出たのか信じられないような崩れ方をしてしまい、宇野に逆転優勝を許した。

 微妙な空気が流れるフリー後のミックスゾーンで、羽生は自身へのいらだちをにじませていたが、その声に明るさが戻ったのは宇野について語り始めた時だった。

「昌磨が辛そうなのはずっと見ていて思っていたので、それがやっと落ち着いてきて『スケートに集中できているな』と思うと、やっぱり嬉しいですよね。これからも彼らしく頑張ってほしいですし、心から応援したいなと思います」

 メダリスト会見で、宇野は前季「ゆづくんみたいに強くなりたい」という思いから結果が出せなくなり、不調を経て「僕は僕らしく」という戦い方にたどりついたことを明かしている。

「僕にとってのスケート人生の大きな一つの目標を、皆さんはオリンピックと思っていると思うんですけれども、僕にはそれ以上に『羽生選手といつか同じ立場で戦って、一度でいいから勝ってみたい』という目標があった。それだけ僕にとって、すごく大きな特別な存在。本当に今回の結果は偶然のところがたくさんあると思うんですけれども、それでも今シーズン苦しい中でスケートを止めずにちゃんとやってこられたことが、いい方に向いて良かったな」

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常に宇野の“憧れの存在”だった羽生